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※この作品は性描写があります。18歳未満の方はお戻り下さい。
18歳以上の方は自己責任でご閲覧下さい。



仔供が、泣いている。
激しく、苛烈な焔のように、全身全霊を憎しみに窶している。
その姿はあまりに純粋で、一点の曇りもなく、それ故あまりにも哀しい。

もう1人、別の仔供が泣いている。
少し離れたところから、その焔を見つめている。
水を思わせる清廉な眼差し。静かに涙を流しながら、焔の仔を、真っ直ぐに真摯に見つめている。

水の仔供の背中合わせに、虚空を眺める仔供がいる。
その表情は風のように捉えどころがなく、笑っているのか哀しんでいるのか分からない。
背を水の仔供に預け、怒るでもなく、泣くでもなく、何も言わずにただ視線を漂わせている。
 
少しずつ、焔の仔の姿が遠のいていく。
水の仔が、焔の仔の名を呼ぶ。
焔の仔はそれに気付くが、しかし距離は離れるばかり。
焔の仔が、水の仔の名を叫ぶ。
水の仔は手を伸ばすが、もはや焔には届かない。
水の仔がそれでもその場から動かないのは、風の仔を背に感じているから。
水の仔がそれでも手を伸ばすのは、焔の仔を救いたいから。
 

なぜ、離れねばならないのか。
離れたくはないのに。

 


 

regress

 

1.

 

月の綺麗な夜。
戸の外で、月明かりに不審な影が揺らめくのが見えた。
(...追っ手か)
桂はすい、と刀に手をかけ、腰を僅かに落とす。神経を研ぎ澄まし、不審者の次の動きを待つ。
影がゆらりと動く。殺気は感じられないが、どうにも様子がおかしい。
息を潜め、戸に手をかける。
「誰だ!」
ざっと戸を引くと、いきなり男が胸に倒れ込んできた。
「え...!?」
思わず抱きとめる。その感触があまりに懐かしく、桂は一瞬気が遠くなるような感覚に襲われた。
派手な着物に身を包み、片目に包帯を巻いた男。
----高杉。
ドキン、と心臓がはねた。
腕の中の男は、ぐったりと目を閉じている。目立った外傷はないが息が浅く、額に手をやるとかなり熱い。
「高、杉...?」
呼びかけてみるが、すでに意識がない。人目についてはまずいと、ひとまず中へ運び入れた。
ゆっくりと夜具に横たえ、濡らした布で顔を拭いてやる。苦しげな息が、少しだけ和らいだ。
「これは、どういう状況なのだろうか...」
上がった心拍数を落ち着かせようと、わざと声に出して呟いてみる。
紅桜の一件以来、次に会うときは完全に敵対した状況であると思っていた。
ならばこれは、罠か。
しかし、横たわる高杉はあまりに無防備だ。
次に会うときは斬る。そう言ったのは自分だ。
眠る高杉を見つめる桂の表情が、切なげに曇った。


こいつの気性の激しさは、昔からよく知っている。
誰よりも無垢で、純粋で。
だからこそ、この世の裏切りを許せず、割り切ることもできず、心のすべてを憎しみにやつした。
誰よりも苛烈で、誰よりも苦しみ続ける、一途な獣。

心のすべてを使ってこの世を憎む、苦しみ。少し前までは、自分も同じだった。
救ってやりたいと思うのは、間違いだろうか。
銀時と再会してから変わった自分。そのことで高杉は、どんな思いをしたのだろう。
----考えすぎンな、
そう言った銀時の言葉を思い出す。でも。
高杉が抱く苦しみ、銀時が耐えている辛さ、そのどちらも、誰より深く理解しているのは桂。
眠る高杉の額に濡れた布をのせ、桂の瞳が愁いに沈んだ。


「...、ぅ...」
ふと、高杉の唇が動く。2・3度瞳が瞬き、桂の顔に焦点を結ぶ。
「...気がついたのか?」
どういう表情をしていればよいのかわからず、桂は咄嗟に背を向けた。
「貴様、一体どういうつもりだ?」
なるべく冷たい声になるように、言葉を紡ぐ。だが返ってきた答えは、予想を超えるものだった。
「...ここは...?」
一瞬、ふざけているのかと思った。だが続いた言葉に、桂は声を失う。
「お前、誰だ...?」

 

2.
高杉が桂のもとに文字通り転がり込んでから、二日。
医者に診せたところ、何か神経系に作用する毒を摂取したのだろうということ、記憶障害はおそらく一時的なものだろうということを告げられた。
薬を飲ませると熱は多少落ち着いてきたようだが、記憶は今のところ全く戻る様子を見せなかった。

眠る高杉を見つめながら、桂の表情が沈む。
(こいつを、ここに置いておいていいのだろうか...)
曲がりなりにも今は敵対する身。もしこのことが党員に知られれば、ただではすまないだろう。桂の党の者にとって高杉は桂の命を狙った許しがたき敵であり、思想的にも対立する危険分子だ。
エリザベスには、しばらく家を空けるように言ってある。いつもと違う自分の様子を感じたのか、理由は聞かずに黙って出て行ってくれた。エリザベスには悪いことをしたと思う。
桂とて、高杉とこういう再会の仕方をするとは夢にも思っていなかった。
今の高杉には記憶がない。真選組に追われる身では外に放り出すわけにもいかず、かといって桂の命を狙う鬼兵隊に接触を計るわけにもいかない。だから。

それが言い訳だと、桂自身は気付いているだろうか。

 

 

「気分はどうだ?」
布を水に浸しながら、桂が声をかける。
「熱はだいぶひいてきたようだな。水だ、飲めるか?」
そう言って覗き込むと、長い髪がするりと流れた。高杉はその髪を指に絡ませてすいと梳き、きれい、と呟いてうれしそうに目を細める。
「ね、飲まして」
「っ、自分で飲め!」
「怒ンなよ...じゃあ、起こして」
高杉が甘えるように手を突き出す。
「自分で起きろ!」
ンだよケチ、とふて腐れながら、高杉がよたよたと上体を起こす。その背を支えるように、桂の手がすっと添えられた。背に暖かい掌を感じ、高杉の口元がにっとほころぶ。
「まったく、お前という奴は...」
桂はぶつくさ言いながら、コップを高杉の口元まで運び、ほら、と促す。
その様子を見ていた高杉は、思わず吹き出した。
桂が眉をひそめる。
「何だ。何がおかしい?」
「だってよぉ...」
くつくつと肩を震わせながら、腹を抱えて笑いを堪える。
「お前、言ってることとやってること、ばらばらだもんよ...」
桂はコップを持ったまま憮然とした。
屈託ない笑顔を見せ、高杉は桂の手からコップを取り上げ、床に置く。
「何だ、飲まんのか?」
「先に、こっち」
高杉の腕が、桂の首筋にふわりと絡んだ。瞬間何が起きたか飲み込めず、桂は抱き寄せられるまま高杉の腕の中に収まる。
「いい匂い...」
桂の首筋に顔を埋めて、高杉が安心しきったような声で呟く。
「...おい!?」
ようやく我に返った桂が、戸惑いの声を上げる。焦りを隠せない様子で、じたばたともがき出した。
「は、離せ、」
「やだ」
ぎゅうう、と桂の身体に抱きつく。

「ずっと、こうしたかった」

一瞬、桂の動きが止まる。

「な、何を...」
「俺、たぶんお前のこと、すっげえすきだったと思う」

ズキン、と、桂の胸に痛みが走る。

「何も覚えてねェけど、お前見てたら、すっげえこうしたくなった...」
離さないと言わんばかりに抱きしめる力を強くして、桂の胸元に顔をうずめる。まだ熱が下がりきっていないのだろう、抱きついてくる身体はほのかに熱い。
「ま、待て、」
桂はひどく動揺し、どうにか高杉の腕を振りほどこうとする。その必死な様子に、高杉の表情が曇った。
「...悪ィ」
少しだけ傷ついた顔で、腕を離す。
「...俺は、嫌いか?」
桂のうろたえる瞳を、じっと見つめる。
----こいつのこんなに澄んだ表情を見るのは、いつ以来だろうか...
問われた問いに答えるよりも、自分を見つめる隻眼の無垢さに、桂の記憶が遡っていく。
今の高杉はあまりに無防備で、まっさらで、無垢だ。
そしてそれは、高杉の本来の魂。おそらく道を別った現在でも、純粋なこの獣は、身を守ることを知らず傷つき続けている。
「な、お前は俺のこと、嫌いか?」
真摯な、どこか縋るような眼差し。子どもの泣き顔にも見えて、桂の胸が締め付けられる。
「大丈夫だ」
そっと言って、高杉の身体をやわらかく包み込んだ。何が大丈夫なのか、自分でも分からぬまま。

 


3.


体調が回復してからの高杉は、四六時中、片時も桂の傍について離れなかった。
まるで、ひと時でも桂の姿が見えなくなることを恐れているかのように。

 
 

「こら、離せ!読めんだろう」
「いーじゃねェかよ。ンなつまんねぇもん読んでないで、俺にかまえ」
後ろからぎゅうと抱きついて、桂の手の書物を覗き込む。
「な、わがままを言うな!どけっ」
「やだ。こっち向けよ」
肩を掴んで強引に自分の方を向かせる。
「...ばっ、ばか、やめろ、」
「やだ」
ちゅ、ちゅ、ちゅう。甘えるようにキスをして。
 

 

「こら、風呂にまで入ってくるな!狭いだろう」
「うるせェな。狭くねぇって」
制止に構わず入ってくる高杉に、濡れ髪の桂がため息をつく。
「...まったく、お前は...」
「いいじゃねェか。俺が洗ってやるからさ」
「え、ちょっ...」
抗議の声をあげる間もなく、高杉は桂の髪を手に取り、洗髪剤をたらりと垂らす。
「ほら、目ェ閉じてろ」
ちゅう。その隙にキスをして。
「わ、ばか、」
「何だ、目閉じてろって言っただろ?しょうがねェ奴だな」
「それはこっちの台詞だ!」
 


「こら、そんなにくっつくな!寝苦しいだろう」
「うるせェ、この方が眠れンだよ」
ぎゅううと抱きついて離れない。甘えるな、と言いかけて離そうとしたものの、高杉の表情が実はひどく不安げなことに気付く。
「...仕方ない奴め...」
そっと背に手を回して撫でてやると、桂の胸元に顔をうずめ、
「いい匂い...」
安心したように目を閉じ、しばらくすると安らかな寝息を立て始めた。
幼い頃、よくこうして自分の布団に潜り込んできていたのを思い出す。
桂は眠れぬまま高杉を胸に抱き、じっと虚空を見つめていた。

 

 

「こら、離せ!すぐ帰るから大人しく待っていろ」
党の会合に出かけようとする桂に、しがみつくように離れない。
「やだ。行くな」
「無理を言うな、外せん用なのだ」
「やだ。俺を置いて行くな」

おれを、おいて、いくな。
その言葉に、なぜか一瞬、桂の脳裏に鬼兵隊の船での出来事がフラッシュバックする。

「...どうしたんだよ?」
「あ、いや、何でもない...。とにかく、離せ」
桂は既視感を振り払うように首を振った。高杉はなおも食い下がる。
「行くなよ」
「あまり困らせるな...。夜更けまでには戻る」
「...長ェよ。1時間が限度」
「無理だ、わがままを言うな」
「やだ。1時間過ぎたら探しに出るぜ?」
「駄目だ!お前は...」
「何だよ」
「...いや、わかった...。2時間だ。2時間で戻る、だから決して外には出るな」
「...絶対だな?ちゃんと帰ってこいよ?」
「ああ...だから大人しく待っていろ」
「大人しく待ってたら、キスしてい?」
「駄目だ」
「即答かよ...。まあ、するけどな」


 

桂は家路を急ぐ。党の会合は早めに切り上げたものの、途中で運悪く真選組の検閲にあい、約束の2時間をとうに過ぎてしまっていた。
(...まずいな...)
探しに出る、と言った高杉の言葉を思い出し、自然と駆け足になる。辺りはすでに昏くなり、明かりが灯り始めていた。
ようやく家にたどり着く。急いで中に入ったものの、部屋は真っ暗だ。
「...いないのか?」
おそるおそる呼びかけてみるが、返事がない。
(...まさか、外へ?)
真選組があちこちで検閲をかけている今晩、記憶のない高杉が一人で出歩くことが何を意味するか。桂の背に冷たいものが走る。
「高杉、」
思わずその名を呼んで、外に駆け出そうとしたそのとき。
後ろから身体を強く捕らえられた。あまりに突然で、桂は逃れる機を失う。
「なっ...!」
強い力で締め付けられ、そのまま床に組み敷かれる。暗闇の中、窓から入る微かな光に、高杉の輪郭が浮かび上がった。
「な、何をする...?」
問いには答えず、桂の手首を頭上に押さえつけ、もう片方の手で着物を乱暴に掻き乱す。その表情は逆光のせいでよく見えない。
「や、やめろ、」
制止の声が届いているのかいないのか、もがく桂を力ずくで押さえつけ、無言でその唇を塞ぐ。
「んんぅ...!」
舌が深く差し込まれ、貪るように絡められる。
ぞくん、と、眠っていた感覚が呼び起こされるような気がして、必死に高杉を振りほどこうとする。
「んっ...、」
顎を捕らえられ、噛み付くように再度唇を合わせられる。甘くじゃれついてきていた今までが嘘のように、骨ばった手が乱暴に身体を嬲る。高杉の豹変ぶりに怯えすら感じ、必死で抵抗するものの逃れられない。
「んやっ、いやだ、あっ...!」
引き裂くように桂の着物を剥ぎ、暴かれた上半身のいたるところに強く激しく吸い付く。熱い舌と唇が荒々しく身体を侵略し、赤い跡が次々に浮かび上がる。滅茶苦茶に貪るその様子は、まるで飢えた獣のようだ。
「アっ、あぁっ!やだ、やめろ、いやっ...!」
腕を床に押さえつけられ、上に圧し掛かられ、身体を激しく貪られ、怯えと痛みと快感が身体の内部を駆け巡る。奥底に眠る熱が強引に引き出されるようで、桂は全身で抗った。だが抵抗すればするほど、高杉の動きは激しさを増す。
「んぁあっ...!」
胸の突起を強く噛むように吸われ、悲鳴に近い声が上がる。その声に、一瞬高杉の動きが止まった。
「...俺を、拒むな...!」
獣がようやく言葉を発する。月明かりが窓から射し込み、その横顔を照らした。

高杉の頬を伝う、ひとしずくの涙。
幼く拙い、その泣き顔。

(...ああ、そうか、)
桂は悟ったように全身の力を抜き、高杉にその身を委ねた。
突然抵抗をやめた身体に、押さえ付ける高杉の力が徐々に抜けていく。
桂はふわりとその背を包み、獣を胸元に抱き寄せた。
「お前を、拒んだのではないよ」
頭を抱き込み、ゆっくりと背を擦りながら、静かな声で諭すように語り掛ける。
「ひとりにさせて、すまなかったな...。さぞ寂しかっただろう」
世界に一人取り残されることが、どれだけ不安で恐ろしいことか。
高杉の身体の強張りが、少しずつ解けていく。

「...あいたかった、」
おまえに、あいたかった。

 涙が一筋、獣の頬を伝う。その表情に、桂の心がどうしようもなく痛む。
鬼兵隊の船の甲板で、自分に背中を向けていた高杉。
世界を壊すと言うその男の魂は、こんなにも無垢だ。


どうか神様、この哀れな仔供が、これ以上傷つきませんように。



4・5・6へ

 

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