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※この作品は性描写があります。18歳未満の方はお戻り下さい。
18歳以上の方は自己責任でご閲覧下さい。



1.


この街は、闇と光が半分ずつ混ざったような、独特の色を帯びている。
色欲、嗜欲、金銭欲。この街に棲むあらゆる種類の欲望が交じり合い、空気となって夜の空に今日もゆらゆらと立ち昇る。
夜の海の底に一人、金時はいつものように捉えどころのない瞳で街を歩いていた。
 
曲がりくねった路地裏を進み、すでに廃墟と化している家屋の、地下へ続く階段を下りて行く。
その場所では今夜、闇の競売が行われている。開催場所は毎度不定だが、この街の裏世界に精通している金時にとってそれを調べるのは造作もないことだ。
競売自体に興味はないが、職業がてら、体の空くときには情報収集を兼ねて参加することにしている。
職業。表向きはホストだが、金時にはもうひとつ、便利屋という裏の顔があった。


競売はすでに始まっている。入場者は皆覆面をつけ、素顔を晒すものは誰もいない。同じように金時も顔を隠し、すり鉢状になっている会場の、舞台からやや離れた席に腰を下ろした。
すべて違法であるという点は共通しているものの、競売にかけられる商品は様々だ。薬や銃器、はては娼婦まで、欲望を満たす様々な品物がここでは売り買いされる。
会場にはいつものように、商品に関する感情のこもらないアナウンスが流れている。
商品は、会場の底にある舞台に順に提示される。それに対し客たちは手元のリモコンで値段をつけていく。
舞台脇に設置された電光板に値段が次々と更新される、無言の競り市。

競売はどんどんと進んでいく。3時間が経過した頃、『それでは本日の最後の商品』例によってアナウンスが流れた。
瞬間、静かだった場内が低くどよめく。うとうととしかけていた金時は薄く眼を開け、舞台上の商品に焦点を結んだ。
台の上に横たえられた、人間。一瞬人形かと思ったが、モニターにアップになった映像から生きているのだと分かる。商品とされたその人物は透けるように薄い襦袢を纏い、薬を打たれているのか朦朧とした表情で、浅い呼吸を繰り返していた。
(...こいつは!?)
そのただならぬ様子に、金時は思わず身を乗り出す。
白い肌と対照的に、黒くうねる絹のような髪。切れ長の瞳を縁取る長い睫毛。手足は台から伸びた鎖に繋がれており、白い胸元と脚がわざと乱された襦袢の隙間から扇情的に覗く。
清らかな生贄のようでも淫らな娼婦のようでもあるその姿は、見る者の欲を掻き立てるに十分な代物だった。
“最後の商品は、男娼でございます” 無機質なアナウンスが流れる。
(男...?)
一瞬戸惑うが、身体のラインは確かに男のそれだ。商品目録に載っていないところを見ると、おそらく予定外の出品だろう。どうやら本人の意思ではなさそうだ。
(これは...)
常とは違う状況に、金時は厳しい表情で展開を見定める。
おそらくは、組織がらみの処罰か何かだろう。闇市を仕切る組織とトラブルを起こしたか、
あるいはそれに巻き込まれたか。どちらにしても穏やかでない。
 “本日の目玉は稀に見る一級品”アナウンスが流れる。“しばしその価値をご覧下さい”。
突然、台の傍に指先から顔までを全て黒い布に覆われた男が現れる。影のようなその男は、台に横たわった美しい人物を乱暴に抱き起こし、背後から締め上げた。
強い力に、“商品”の表情が歪む。薄い襦袢一枚で羽交い絞めにされたその姿は、それだけでひどく扇情的だ。
モニターに、表情が大きく映し出される。瞳には強い光を湛えているものの、その表情はかなりきわどく、見る者の欲を刺激した。
電光板の値段が一気に跳ね上がる。
男の手が、襦袢の上から胸元を性的な指つきでなぞる。
ビクン、と唇が震えた。なおも続く指先の煽りに目を閉じて耐えようとするが、媚薬のせいかその表情は色を増すばかりだ。
あまりに官能的な見世物に、金時の背中に強い感覚が走る。
男の手が、胸元から下腹部へゆっくりと下りていく。台の上に脚を開く格好で坐らせられた麗人は、耐え難いとばかりに顔を背けた。
電光板の値段は上昇し続ける。買い手が決まるまで続くであろうこの辱めに、せめてもの抵抗と声を押し殺して耐える。
だが次の瞬間与えられた強い刺激に、思わず喉が震えた。背を仰け反らせ、長い髪が宙を舞う。
「ぁ...!」
最も快感に弱い部分を弄られ、脚がビクリと揺れる。逃れようともがくが、薬のせいか全く力が入らない。
「っ、く...は、ぁっ」
背後から羽交い絞めにされたまま激しい愛撫を与えられ、声が漏れるのを止められない。
無理矢理陵辱されるその嬌態に、電光板の値段がさらに跳ね上がった。

 

 

突然、数発の銃声と共に照明がすべて消える。
立ち込める火薬の匂い、暗闇に閉ざされた会場。ガラスの破裂音に、あちこちで罵声や悲鳴が上がる。
状況が呑み込めずパニックに陥った客たちの間を、風のように駆け抜けるひとつの影。
 
金時は人混みを華麗に抜け、舞台に勢いよく飛び乗る。舞台上にいた黒ずくめの影をあっさりと床に沈め、男の手から解放された“競売商品”に駆け寄った。
ペンライトを口に銜えて照らしながら、手足の枷の付け根をピンでつつく。手際よく作業を進め、ものの数秒で白い肢体を台座から解放した。そのまま易々と抱き上げる。
「大人しくしててね?お姫様」
腕の中に収めた麗人の耳元で、ニッと笑って囁く。くぐもった声で反論があったようだが、金時にそれを聞く時間はなかった。
「逃げるぞ」
細い身体をしっかりと抱きしめ直す。一呼吸置いて、金時は舞台から軽やかに飛び降りた。そのまま一気に走り出す。
混乱に陥った会場の人波をうまくかわし、出口への階段を目指して駆け上る。背後から、桂が逃げたぞ、という怒号と共に銃声が響く。
(桂、ね...)
腕の中の人物の名を心に留め、金時はそのまま夜の闇に溶け込んでいった。

 

 
 

2.

 

桂が目を開けると、まず毒々しい色の天井が映った。
「気がついた?美人さん」
部屋の隅から声がする。
「ここ、は...」
起き上がろうとするが、薬がまだ残っているのかうまく力が入らない。掛けられたシーツの下でもぞもぞと身体を動かすと、自分が何も身につけていないことに気付いた。
「ここ?」
部屋の隅にいた金髪の男が、こちらに寄ってくる。
「ラブホだよ」
ホストらしい甘さを含む声と流し目で答え、金時は桂の横たわるベッドに腰掛けた。
「水、飲む?」
コップを差し出して見せる。だがそれを受け取らずに、桂は真っ直ぐな視線を向ける。
「貴様は、誰だ...。なぜ、」
「飲んどけって。あのクスリ、けっこうキツイやつみたいだったから」
問いを遮って白い身体を抱き起こし、金時はコップを再度差し出した。
「はい、どうぞ」
「...本当に水だろうな?」
桂は警戒の色を露わにして金時を睨む。
「あのねぇ...俺、仮にもあんたを助けたわけだし?」
金時は苦笑して、コップの中の液体を一口飲んで見せた。
「ほら、正真正銘タダの水ですよ。これでいい?」
コップを手に押し付ける。桂は恐る恐るコップを受け取るが、口をつけるのはまだ躊躇った。
「おまえ、疑り深いなぁ...」
金時は怒りもせず、感心したように笑みを浮かべる。
「当然だ」
キッと睨んで答える。気が強いのね、と金時はからかうように呟いて、桂の髪をすいと弄んだ。
それを邪険に振り払い、桂は警戒の色を強くする。
「貴様、何者だ。怪しすぎる」
「怪しすぎるって...まあ、確かに」
金時は思わず吹き出した。だが桂はますます表情をきつくする。
「あんた、怒っても美人だね」
面白がるような顔をして、金時は笑みを浮かべた。その余裕が桂の勘に障る。
「あの場から解放してくれたことには礼を言う。だが、助けたとは限らない...。何が目的だ?」
「んー、そうだねぇ...」
ホスト特有の優雅な動きで桂の手からコップを取り上げる。水を自らの口に含み、ニヤリと笑って桂の顎を上向かせた。
「ン、んっ」
ぶちゅ、と少し汚い音がして、桂の口内に水が移される。生温かい感触が、渇いた喉を潤した。
「こうゆう、コトとか?」
口唇を軽く重ねたまま、笑みを含んだ甘い声で囁く。
「...っ!」
桂は慌てて身を離す。シーツを手繰り寄せ、全身で威嚇するように金時を睨みつけた。
その様はまるで手負いの猫のようで、どこか庇護欲をそそるものがある。
「あら、可愛い仔猫ちゃん」
「仔猫ちゃんじゃない桂だ!...あっ」
自分がうっかり名乗ってしまったことに気付き、桂ははっとした表情を浮かべる。その様を見ていた金時は堪えきれずに笑い出した。
「おもしれぇ奴...!」
桂は憮然とした表情をして睨みつける。だがそれは金時を喜ばせるだけだ。
「いちいち反応がいいねぇ...」
額に手を当て、おかしくて仕方ないといったふうに頭を振る。その様子に毒気を抜かれ、桂は少し力を抜いて、目の前の金髪の男を見つめた。
「まあ...いいから、飲めって」
まだ肩を震わせながら、再度コップを差し出す。桂はおそるおそる受け取ると、やや躊躇った後、一気に飲み干した。
冷たい水に、喉が潤されていく。媚薬のせいでだるかった身体が、ほんの少し楽になるように感じられた。
「ね、毒じゃないでしょ」
空になったコップを満足そうに受け取り、金時は桂の瞳を覗き込んだ。
「...妙な男だな...」
桂は覗き込んでくる瞳を正面から見つめ返す。
「何者だ、貴様」
「ん~?君に一目惚れした、しがないホスト」
桂の顔を捉え、甘い息の混じる声で囁く。
「嘘をつくな...。俺は真剣に聞いている」
「嘘じゃないよ?」
色香をたっぷり含んだ視線を流す。だが桂は真面目な顔を崩さない。
「そういう台詞は、内ポケットの銃を捨ててから言ってもらおうか」
一瞬驚いた顔をして、金時は軽く口笛を吹いた。
「よくお見通しで」
「ただのホストがあの闇市になど来るものか...。俺の着衣を剥いだのも、武器を隠し持てないようにするためだろう」
「なるほど...」
嘆息交じりに呟いて、金時は桂に向き直る。
「じゃあこっちも聞くが、その闇市で売られかけてたアンタは、一体何者だ?」
「その前に答えろ。貴様の目的は何だ。なぜ俺を助けた」
「そうだねぇ...抱いてみたかったから?」
片眉を跳ね上げ、桂は金時を睨み付けた。
「ふざけるのも大概にしろ...。そんな理由で闇市を敵に回すものか、あの“便利屋”が」
”便利屋”という言葉に、金時の瞳から一気に温度が消える。足を組み直し、桂から視線を外した。
「何だ、まいったね...。俺を知ってンのか」
「やはりな...。あんな無茶をやってのける金髪の男と言えば、自ずと当たりはつく」
優越の笑みを浮かべる桂を目の端で捉え、金時もまた、挑戦的な笑みを浮かべる。
「俺を知ってるってことは、アンタも只者ではなさそうだな...。そっちこそ、何者だ?」
「答える義務はない」
強い光を湛えた視線。それを受け止める、捉えどころのない瞳。
敵か、味方か。ギリギリの攻防戦。
「じゃあ、言わせてやろうか?」
桂の手首をくいと掴む。
「な、」
非難の声をあげる桂の上体を引き倒し、そのまま組み伏せて囁いた。

「悪いね、抱いてみたいってのはホント」



3・4へ

 

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