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「よォ、具合はどうだ? バカでも風邪はひくんだな」
からかうような声がして、桂はうっすらと眼を開けた。
いつもの銀髪が、いつもの気だるい眼で自分を見下ろしている。バカじゃない桂だ、と言おうとしたけれど、空気が喉を震わせただけだった。
「ここんとこ、ペンギンオバケが単体で道歩いてたからよ。どーせこんなことだろうと思ったぜ」
桂の額に手を当てつつ、もう片方の手で持参したらしき袋をごそごそとまさぐる。
ペンギンオバケじゃないエリザベスだ、と言おうとしたけれど、やはり声は声にならない。
「お前、この前うちに大量にみかん持ってきただろ?」
そう言って銀時が袋から取り出したのは、はちみつの瓶。中にはみかんの皮を薄くスライスしたものが漬けてあった。
「風邪にはみかんのはちみつ漬けが一番...てヅラ、さっきから聞いてンのか?」
一言の返答もないのを怪訝に思い、銀時が桂の瞳を覗き込む。ヅラじゃない桂だ、とくちびるが動くが、空気の掠れる音が聞こえるのみで、いつもの凛とした声が聞こえない。
「...喉、ヤられてんのか」
銀時の声が、心なしか優しくなる。
喉に軽くくちづけてから、肩に手を差し入れてわずかに桂の身体を起こし、もう片方の親指で桂の下唇をなぞる。そのまま指を口内に差し入れ、薄く口を開かせた。
「喉にははちみつ、てな。飲めるか?ゆっくりでいーぞ」
はちみつを一匙すくい、とろりと桂の口に落とす。
ゆっくりと流れ込む、黄金色の液体。ほのかに香る柑橘の匂い。
桂の口内に、甘酸っぱい味が広がった。ゆっくり飲み下そうとするが、粘度の高い液体に、喉が拒否反応を起こす。
「......!」
続けざまに激しく咳き込む。熱で体力の落ちた身体には、その衝撃でさえつらい。
「悪ィ、大丈夫か!?」
咳で跳ねる桂の身体をしっかりと抱きとめ、背中をさすってやる。しばらくしてようやく咳が落ち着くと、桂は銀時にぐったりともたれかかった。
体力を消耗しているせいだろうが、その様はひどく儚げで、銀時は思わず桂を抱きしめる。
「...濃すぎたんだな。悪かった」
桂のくちびるに付いたはちみつを、そっと舐めとってやる。熱のせいか、そこはいつもよりも赤い。
「ちょっと待ってろな?」
そっと桂の身体を横たえ、布団をきちんとかけてやってから台所へ行く。湯を沸かし、一度沸騰させてから器を何度か移し変え、飲み込める程度の熱さにまで冷ましてから湯呑みに注いだ。
「ヅラ?」
湯呑みを持って部屋に戻る。死んだような寝顔に不安になって名を呼ぶと、桂がおぼろげに眼を開いた。生真面目なこの病人のくちびるは、こんなときでさえ、ヅラじゃない、と訂正しようとする。
「いーから黙ってろって」
桂のくちびるに指を押し当て、銀時が優しい眼を向ける。その視線がむずがゆく、桂は目を泳がせる。顔が赤いのは、熱のせいだけではないだろう。
「病人にはこっちのがいいだろ」
言いながら、湯呑みにはちみつを落とす。黄金色が湯にとろりと溶け、甘い香りが辺りに漂う。
「起きれるか?」
桂の背に腕を差し入れ、ゆっくりと抱き起こす。もう片方の手で湯呑みを取り、湯を自分の口に含む。
湯呑みを置き、空いた手の指で桂のくちびるを薄く開かせ、そっとくちづけた。
ぴちゃ、という音がして、桂の口内に甘い液体が注がれる。先程よりも優しい味が広がり、ゆっくりと喉を潤していく。
「っん...」
こくりと飲み込み、桂はほうと息をついた。
「うまいっしょ?」
銀時が、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
その顔に、桂は熱で朦朧とした意識の中、子供の頃を思い出す。桂が風邪を引くと、一番に気付くのは昔から銀時だった。
桂のくちびるが、甘い、と動く。
「はいはい。甘いのが喉にいいんだよー」
そしてふたくちめ。再度口内に優しい甘さが広がる。そして、心にも、優しい甘さが広がっていく。
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