「銀時。みかんを剥いてくれ」
よく晴れた昼下がり、袋いっぱいのみかんを抱えて、そいつは万事屋にやって来た。
「エリザベスと雪かきのバイトをしてな。お礼にもらったのがこのみかんなんだが、生憎しもやけになってしまってな、みかんの汁が沁みるのだ」
すらすらとそう言ってずかずかと中に上がり込む。
「ちょ、おいおい!?」
「何だ。貴様万事屋のくせにみかんも剥けんのか」
「ちげーよ!何で俺がみかん剥かなきゃなんねーんだ!?」
「おい、おこたはどこだ。みかんはおこたで食べるものだ」
「こたつはそっちじゃねーこっちだ、つかおこたってお前!イヤその前に手を洗え!イヤ
その前に何で俺がみかん剥かなきゃなんねーんだ!?」
「リーダーと新八君はおらんのか?2人の分のみかんも持ってきたのだが」
「定春の散歩だ、つか俺の分は?俺の分はねーのか!?」
「みかんは24個だ。4で割ったらちょうどよかろう。俺と、リーダーと、新八君と、エリザベス」
「なんでそこでエリザベス?銀さんじゃなくてエリザベス!?ペンギンオバケなんてどーでもいいだろうがよオォォ!」
「ペンギンオバケじゃないエリザベスだ。剥いたらこのタッパーに入れてくれ。エリザベスに持って帰る」
「...おめ、どっからタッパー出してんだよ?」
「エリザベスは薄皮も全部剥いたのが好きなんだ。きれいに剥いてくれ」
「んなもの自分で剥かせろ!なんで俺があんな白い奴なんかのために!?」
「白い奴なんかじゃないエリザベスだ。エリザベスの手ではみかんは無理だ。だからいつも俺が剥いて口に入れてやるんだが、今日は無理だから貴様に頼みに来た」
「何、お前ペンギンオバケにアーンてしてやってんの?何そのラブラブな感じ!?つかあいつ絶対自分で剥けんだろ!」
「なんだ。貴様もみかんをアーンしてほしいのか」
「え?ああ・・イヤちげーよ!だからなんで俺がペンギンオバケのためにみかんを剥かされなきゃなんねーんだ!」
「ほら、ひとつめだ。丁寧に頼むぞ」
「え?ああ...てイヤおい!」
10分後。
「さすがだな、銀時。俺が見込んだだけのことはある」
「何その偉そうな感じ?お前俺のみかん剥きの師匠?師匠気取りですかコノヤロー?」
「これでエリザベスにみかんをアーンできる。喜ぶぞぉ、エリザベス」
「喜ぶぞぉ、じゃねーよ!何でお前があんなのにアーンするために俺はみかんを剥いてんだ!?アレ何やってんの俺!?」
「銀時。俺もみかんを食べたいぞ。アーンしてくれ」
「え?ああ...ってイヤちょっと待て!自分で食え!」
「しもやけが痛いのだ。アーンしてくれ」
「え?ああそうか...てイヤイヤ」
「あーん」
「え?あ、ホラ...って何やってんの俺!?」
「むぐ、むぐ...おいしいぞ、銀時」
「そうか?んじゃ俺もひとつ...」
「あーん」
「あ、ほらよ。・・って俺には食わせないつもりかアァァ!」
「むぐ、むぐ...おいしいぞ、銀時」
「俺も食う!俺も食うぞ!」
「あーん」
「あ、...ってだから!」
「あーん」
「...(怒)」
「あーん」
「......(怒)」
「あーん(笑)」
「(笑)じゃねェェ!...ああクソ分かったから!ホラ!」
「むぐ、むぐ...」
「...うまいか?」
「なんだ、貴様も食べたいのか?」
「...だからさっきからそう言ってんだろーがアァァ!」
「わかった。ほら」
「...何やってんの?」
「お前の分のみかんはないから、代わりに俺を」
「え?マジでか?マジでか!?剥いていいのコレ!?食べていいのコレ!!?」
「冗談だ。馬鹿者」
「...(怒~)」
「だが礼ならするぞ。目を閉じろ」
「え?」
くちびるに、つめたくてやわらかい感触が当たる。
よく知ったその感触は、今日は甘酸っぱく、微かにみかんの匂いがする。
「...では、これで。エリザベスが待っているのでな」
「...待てよ」
「な、離せ...ん、んん...っ」
「......やっぱ、お前、剥く」
「ん、よせ、あ...っ」
そんな、ある冬の昼下がり。
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