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最近、小太郎を見る晋助の目が、変わってきたように感じる。

この世の全部を恨むような目をしていたこいつを、小太郎がうちに連れてきたのはもう5年も前のことだ。
どんだけクソガキに育つんだと思っていたら、小太郎の深い愛情に包まれて、かなりひねくれてはいるものの何とか人の道を踏み外すことなく育ってきた。
だが13になったこいつの、小太郎を見る視線が、この頃危ない。
じっと焦がれるように見つめたり、ぼうっと憬れるように眺めたり、有体に言えば恋する者の視線。
そして俺に向けてくる、恋敵への視線。
互いに牽制しあう毎日。
 

「てめぇ、何ぼーっとしてんだよ。宿題はもうやったのか」
夕飯の支度をする小太郎をリビングから呆けたように見つめている晋助に、意地の悪い質問を投げかける。
「...うるせぇな。テメーは黙ってろ」
案の定、晋助は不機嫌な顔で振り返った。
「てめ、父親に向かってテメーとは何だ」
「テメーなんか、テメーで十分だ。テメーだっておれのことテメーって呼ぶだろーが」
「てめぇ、父親にテメーなんかテメーで十分だとは何だ。つかテメー言い過ぎて訳わかんなくなってきた、もうめんどくせえ。テメーと呼ぶのももったいねぇ、テメーなんかクソガキで十分だ」
「何だとこのクソオヤジ、父親父親って威張んな!おれだって別に好きでお前の...」
言いかけた晋助の言葉を、凛とした声が遮った。
「晋助!」
ぎくりと肩を揺らした晋助の後ろに、艶やかな黒髪をひとつにまとめた小太郎の姿。
「父親に向かってクソオヤジとは何だ。そんな悪い言葉を教えた覚えはないぞ」
凛々しく厳しい口調で、晋助を叱り付ける。
「ごめん、こたろ...」
晋助は猫のようにしゅんとして謝った。へへ、ザマーミロ。にやりとほくそ笑むと、小太郎はすかさず俺の頭をはたく。
「いってぇ!何すんだよ!」
「貴様もだぞ銀時、子供相手に大人げないと思わんか!父親として、そんなことでは困るぞ」
「何で俺だけ殴られンだよ!」
「貴様の曲がった根性はこうでもせんと治らんだろう!」
うつむいている晋助が、密かにニヤニヤしているのが目に入った。あのガキャ、後で覚えてろよ。

 

「おい、風呂沸いたぞ」
風呂具合を確かめてからリビングに戻ると、小太郎の膝ですうすうと寝息をたてる晋助。でもこいつ、瞼がピクピクしてやがる。
「晋助、起きてンだろ?さっさと入れ」
狸寝入りを決め込む晋助の頭を小突こうとすると、俺の手が光の速さで叩かれた。
「しっ!寝ている子供を叩き起こすやつがあるか」
小声で叱り飛ばし、俺をキッと睨んでから、晋助の頭をゆっくりと優しく撫ぜる。その瞬間晋助が薄目を開き、俺を見てニヤリと笑った。
「このクソガキ...!」
「銀時」
それに気付かぬ小太郎が、不機嫌な声で俺を睨みつける。
「あ、いや、ちげーよ...」
俺はしどろもどろだ。何だってこんなに尻に敷かれてんの俺。
「晋助、風呂が沸いたそうだ。今日はもう遅い、早く入っておいで」
小太郎は俺に対するのとはまったく違う優しい声で、そっと晋助を揺り起こす。クソガキはわざとらしく伸びをしてから目を開けた。
「う~ん...」
目をこすり、甘えるように小太郎に抱きつく。
「なあこたろー、いっしょに風呂入ろーぜ」
「こらクソガキ、13にもなって一人で風呂にも入れねェのか?」
茶々を入れる俺をギロリと睨みつけてから、晋助は猫撫で声でささやく。
「なあ、こたろ、いいだろ?」
「まったく、いくつになっても甘えん坊だな、晋助は」
頭をくしゃりと撫でてから、小太郎は微笑んだ。クソ、その優しさを少しでも俺に分けてくんねぇかな。
「すまないが、俺はまだ少し仕事が残っているんだ。そうだ、銀時と入るといい」
「「はぁ!!?」」
2人の声が盛大にハモった。
 

「...ったく、なんでテメーなんかと...」
「バッカヤロ、それはこっちの台詞だ」
晋助と俺、湯船に仲良く並んで浸かり、さっきから同じ言葉ばかりをアホみたいに繰り返す。
「だいたいテメ、13にもなって甘え過ぎなんだよ。小太郎にこれ以上近づくんじゃねェ」
「何だよ。自分ばっかり怒られるからっておれに当たんな」
晋助は生意気な口調で言い返してくる。父親の威厳も何もあったもんじゃねぇ。
「この際はっきりさせとくけどな、小太郎は俺の妻!お前は子供!そこんとこ勘違いすンなよ」
「ふん、だから何だってンだよ。おれの方がこたろーに愛されてるもんね」
それは薄々俺も感じていたことで、ぐっと声が詰まる。
「おれだって、あと2・3年もすればいっちょまえの男なんだからな。ジジイには負けねえ」
...こンの、クソガキ!!

 

「小太郎。ちょっと話がある」
風呂上がり。晋助をさっさと子供部屋に追いやってから、俺は亭主面で小太郎に向き直った。
「何だ、改まって」
「おめー、最近晋助を甘やかしすぎなんじゃねぇのか?」
なるべく厳しい口調で、小太郎を見据える。だが小太郎は少しも動じることなく、まっすぐな瞳で反論してきた。
「叱るべき時はきちんと叱っている。貴様は何だ、自分も子供のようではないか」
「う...うるせェよ」
「子供相手にやきもちなど焼くな、大人げない」
俺が説教するはずが、いつの間にか立場逆転。
「だいたい貴様は晋助の父親という自覚が足らん」
小太郎は口を尖らせて小言を言う。父親ってお前が勝手にそう決めただけだろ、とは思っても言わない。
俺だって俺なりに、晋助を俺と小太郎の子としてマジで育ててきたんだ。だが、父親だからこそ許せないこともある。
「ばっかオメ、思春期のガキを甘く見ンなよ?あの年頃のガキは何やらかすか分かんねーんだからな。現に俺がお前を初めて押し倒したのも確か13かそこら...」
そう、幼馴染の豹変ぶりに怯えるこいつを無理矢理に押し倒して、なだめつすかしつ犯したのは確か13の冬だった。もう10年以上前になるけど、昨日のことのように覚えてる。
小太郎も当時のことを思い出したのか、顔がばっと赤くなった。
「あ...あれは貴様が早熟すぎなんだ、このケダモノめ!晋助と貴様を一緒にするな」
「バカ、あいつだって立派なケダモノ予備軍だぞ?絶対おめーをそーゆー目で見てるって!」
「それは貴様が煩悩の塊だからそう思うのだろう...哀れな奴だ」
そう言って蔑むように俺を睨んだ。あああ、何て可哀想な俺。
 
 

夜も更け、仕事を片付けた小太郎が風呂から上がってきた。
「何だ、まだ起きていたのか」
冷酒をちびちびとヤる俺の姿を見つけ、小太郎は髪を拭きながら寄って来る。
「まあな...。ちょっと飲みたい気分だったんだ」
テーブルの上にはよく冷えた日本酒と、小さなペアグラス。灯りはつけずに、月明かりで飲むのが乙だ。
小太郎は窓辺に佇み、ふと月を見上げた。
「晋助が俺達の子になったのも、こんな満月の夜だったな...」
「ああ、そうだったな」
俺も覚えている。こいつのすることには昔から驚かされてばかりだったが、この上なく険しい眼をした8歳の子供を『今日から俺達の子だ』と連れてきたときにはさすがの俺も仰天した。
「お前のすることは昔から無茶ばっかだよ、まったく」
「だが、お前はちゃんとそれに付き合ってくれるだろう?」
見透かすような眼をして小太郎は微笑み、満月に視線を移す。月明かりを浴びるその背は、消えてしまいそうなほどに儚い。
「お前も、飲めよ」
そう言いながら、俺は小太郎のグラスに冷酒を注いでやった。
「俺など酔わせて、どうするつもりだ...?」
ふわりと振り返って優しく微笑む小太郎の、しなやかな首筋が眩しくて、いとしくて。俺は椅子から立ち上がり、小太郎を後ろからそっと抱きしめた。
「なあ、教育熱心なのも結構だけどよ...」
耳朶に息を吹きかけるようにささやく。
「たまには、独占させろや」
甘えるようにいとおしむように、首筋に口唇を押し当てる。
「俺は、お前の亭主なんだからよ...?」
ややあって、細い指が俺の腕に触れた。
「まったく...子供に嫉妬とは、とんだ父親だな」
そう言う口調は優しくて、指は慈しむように俺の腕を撫でる。俺は小太郎の耳の下に口唇をつけ、なるべくこいつが感じるように、熱い吐息でささやいた。
「今日...いい?」
腕の中に閉じ込めて、白いうなじに鎖骨に、熱い口唇を押し当てる。俺に抱きすくめられた身体が、僅かに悶え始めるのが分かった。お、いい感じ。
「最近かまってくれないし、お前」
大きな掌で、細い身体をゆっくりと下から撫ぜる。腿をしっとりと撫で回し、脇腹から胸元を辿り、首筋を包み込むようになぞり、顎を捉えて後ろを向かせる。そのときにはもう、きれいな
切れ長の目元が、ほんのりと赤くなっていた。あと、もう少し。
「ぎん...、」
「な、お前は、俺の妻だろ...?」
ぽってりとした口唇にくちづけて、舌をゆっくりと挿し込み、ねっとりと絡める。小太郎の身体から、じわりと力が抜けていくのがわかった。
「...小太郎」
ダメ押しに、低い声で名前を呼んで。
「しよ?」
顔を肩口に埋める。ついでに身体を密着させて、俺の主張しかけた熱を押し当てる。
「...まったく...」
ややあって、小太郎は少し困ったように、それでも柔らかく微笑んだ。 うっしゃ!
「晋助が、寝ついたらな...」
こんなときでさえ子供の名を出すこいつだが、あとでたっぷりお前は俺のものだと教え込んでやることだしと、今は勘弁してやることにした。

 

冷えた酒を穏やかに飲んで、大人の時間を楽しんで。ああ、小太郎ってきれいだ、と何度も思って。
少しだけ酔った細い身体を抱き上げてくちづけて、寝室のドアを上機嫌で開けて。
そこで俺の目に飛び込んで来たものは。
「こたろー遅いよ、早く寝ようぜ」
「し、晋助っ!!!」
何と、クソガキが小悪魔の顔をしてベッドの上に座ってやがった。
「て、てめ、ここは夫婦の聖域だぞ!!ガキは子供部屋で寝ろ!!」
「こたろ、どうしたんだよ。具合悪いのか?」
俺の言葉は完全無視。俺に抱き抱えられた小太郎を見て、晋助はちょこんと愛らしく首を傾げた。てめ、こんなときだけ子供の武器を使うんじゃねえ!
「あ、いや...大丈夫だ。晋助こそどうした、眠れないのか?」
俺の腕をあっさりと振りほどいて、小太郎は晋助の方に駆け寄る。何だよそれ!
「すっげえ怖い夢見ちゃってさ...ひとりじゃ眠れそうにないんだよね。こたろ、一緒に寝てくれる?」
「そうか、それは怖かったな、かわいそうに...」
小太郎は晋助を包むように抱き寄せて、ゆっくりと頭を撫でる。その慈愛に満ちた様子に、ああ、俺はこいつのこういうところも好きなんだよなと、惚れた弱みをしみじみと噛み締めた。
いつだってこいつは、他人のために全力で自分を投げ出す奴だった。
「もう大丈夫だ...。腕枕して寝てやろうな」
小太郎は晋助を立たせると、その手を引いて、
「銀時...何を突っ立っている。どけ」
「え?あ、ハイ」
ドアのところに呆然と立ち尽くす俺を押しのけ、2人して子供部屋に行ってしまった。晋助がちらりと振り返り、ベッと舌を出す。
後には、夫婦の寝室にぽつんと1人取り残された俺。
「......、ちょっとォォォォ!!」
はっと我に返って叫び声をあげた俺に、廊下の小太郎が僅かに振り返る。
そのくちびるが、『あとでな』と動いたように見えて、
ああ、俺もちゃんと愛されてるよな、と思い、心がじわりと暖かくなった。
 

 

怖い夢を見たというのは、あながちウソではなかった。
おれがまだ物心つくかつかないかというころの、原初的な記憶。
おれを殴り、投げつけ、罵る、誰か。おそらく、本当の親、というやつなのだろう。
おれは幼い頃に捨てられた。そんなこと、どうでもいい。むしろそのおかげで小太郎と出会うことが出来たのだから、心底感謝してるんだ。
だが、時々、幼い頃のおれの怒りが、おれの心を突き破ってくることがある。そんなとき、おれは怖くて、小太郎がいないと壊れてしまいそうになる。
でも、おれが本当に壊れてしまうことはない。おれのそばにはいつも小太郎がいるから。
 
「なあこたろ、銀時とおれ、どっちが好き?」
ベッドの中で小太郎の腕に頭を乗せ、おれはふと聞いてみた。
「どちらも、俺にとってかけがえのない、大切なものだよ」
小太郎はやさしい声で答え、おれの瞳をそっと覗きこんだ。
「...晋助は、銀時が嫌いなのか?」
「...別に」
小太郎の口から出た銀時という単語に、おれは不機嫌になる。
「ただ、気にくわねェんだよ」
プイと横を向いて呟く。あんなやつが、小太郎のただ一人の相手だなんて。
「はは...、晋助は、父親似だな」
「なっ!?」
ずいぶん唐突で失礼な言い草に、おれは思わずムッと来た。
「どこがだよ!?全然似てねーよあんなやつ!!」
「そうか...?俺には、2人がとても仲良く見えるのだがな。俺だけ除け者にされているようで、ときどき寂しくもあるぞ」
「仲いい...?何言ってんだ」
まるで見当はずれな小太郎の言葉。おれはますます不機嫌になった。
「違うのか?」
小太郎はからかうようにおれの頭をくしゃっと撫でた。ちぇ、また子供扱いだ。
「あれはな、今でこそああいう男だが、あいつなりに色んな思いを抱えて生きてきたのだよ」
小太郎はやさしい表情で、おだやかに語る。なんだよ、そんなカオであいつのことを想わないで。
「はじめて出合ったときはな、幼い頃のお前のように、憎しみしか知らぬような目をした子供だった」
「え...?」
あんなちゃらんぽらんなやつが?と喉まで出かけて、でも小太郎に嫌われたくなくて、ぐっと言葉を押さえ込む。
「だがな、あいつはいろんな思いを、捨てずに抱える道を選んだのだ...苦しいだろうがな。あいつは、捨て切れなかった。苦しみながらも、抱えてこれまで生きてきたのだよ」
小太郎は、遠い眼をしていた。
おれのしらない、2人の歴史。
そして、銀時の憎しみを浄化したのは、小太郎なのだと思った。
「あれは、ああ見えて、心根のまっすぐな、芯の強いやさしい男なのだよ...。おまえもきっと、銀時が好きになる」
やさしく諭すように言われて、おれは返答に困った。
「...ねえこたろ、俺のことあいしてる?」
急に話を元に戻す。だが小太郎は少しも迷うことなく答えた。
「ああ、愛しているよ」
「銀時と、どっちのほうがあいしてる?」
「どちらも、俺にとって本当にかけがえのないそれぞれだ。比べることなど、できぬよ」
小太郎はおれの頬をそっと撫でて、ふわりと微笑んだ。
「俺の一番の願いはな、晋助」
深い色をした瞳が、おれを包むように見つめる。
「お前が、まっすぐにお前らしく育ってくれることだ。この世を憎むのでなく、この世を愛する人間に、育ってくれることだ」
そう言う声はすごくやさしくて、あたたかくて、おれのことを心から思ってくれているというのがわかって、おれはちょっと泣きそうになった。
ああ、こたろ、だいすきだ。
「...俺、やっぱり今日、ひとりで寝る」
「...え?」
「小太郎が喜ぶように、早く一人前の男になる」
細い腕から頭を離し、おれは小太郎に背を向けて毛布にくるまった。
でも、小太郎はそんなおれを強がりごと包み、やさしく背を抱いてくれた。
「大丈夫、おまえは、いい子だよ。眠るまでそばにいるから、安心しておやすみ」
ああ、おれはちゃんとあいされてるな、と、心にじんわりとあたたかいものが広がって、小太郎の胸に頬をぎゅうとくっつけた。

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