※この作品は性描写があります。18歳未満の方はご遠慮下さい。
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5.
「っは、はぁ...」
桂が苦しそうに息をつく。常ならば妖しく広がる黒髪は、今日は短く頬を隠すのみだ。
朦朧とした瞳を覗き込み、口元にはりついた髪をよけてやると、くちびるがもの欲しげに動いた。
悩ましげなその動きに、銀時は引き寄せられるように身体を重ねる。
「ん、待っ、...ッ!」
解されずに貫こうとされていることを知り、桂が息をつめる。
「ばかやろ...これ以上待てるか」
返す銀時の息も心なしか荒い。首筋に吸い付きながら、ぐちゅ、という肉感的な音と共に、桂の中に押し入る。
「あアっ...!」
痛みと快感の支配する強烈な感覚に、桂が身を強張らせた。
「...無茶はしねぇから、力、抜け」
あやすように手を絡め、耳朶を食み、じわじわと身体を進める。奥まで何とか入り込み、深く抱きしめると、桂の口から熱い吐息が零れ出た。
「すでに、無茶、だろうが...」
そんな非難の言葉にすら、扇情的な響きが滲む。
「アレ、そう...?」
余裕ぶって笑んで見せるが、銀時にも限界が近づいている。自分の怪我のことなどすでに頭にない。
腹部に力を込め、動かそうとしたそのとき、突然頬をむにっと引っ張られた。
「あァ?」
これからというところを止められ、声が思わず不機嫌になる。
「何だよ?」
「...俺が、動く...。続けたくば、言うことを、聞くんだな」
息も絶え絶えのくせに、偉そうな口調。色の滲んだ、しかし真摯な瞳で、桂は睨むように銀時を見つめた。
「...すげぇ脅し文句だな、オイ」
むしろ一気に犯したい衝動にかられながら、銀時が呟く。
「続ける、のか、やめる、のか、どっちだ...?」
深く侵されているくせに、くちびるが震えているくせに、真剣な眼で迫る。言い出したら聞かない性分であることは、銀時が一番よく知っていた。
ああ、こいつは、もう。
「...分かったよ、分かりましたよコノヤロー」
たまらなくなり、顔を首筋に埋め、桂の身体を抱きすくめる。
「ならば、どけ...俺が上になる」
「...はいはい」
互いの身体を絡ませ、ぐるりと回転する。桂が上に跨り、銀時の両脇に手を付く格好となった。
「く...」
深く差し込まれ、桂の表情が艶めかしく歪む。
「無理、すんなよ」
桂の脇腹から腰にかけてを、両手でしっかりと支えてやる。
「ゆっくり、息しろな?」
銀時の、優しい声。深く息を吐きながら、桂がそろそろと身体を上下させ始めた。
ふたりつながったそこから、とろけるような感覚が生まれ出る。
「っはぁ、ぁ...っ」
眉を詰め、喉を震わせながら、ゆっくりと、懸命に、身体を動かす。
その様をじっと見つめる、銀時の視線。それにすら官能を与えられ、桂は全身が痺れたようになる。
「ふぁ...っ」
膝の力ががくっと抜け、思わず銀時の胸に倒れ込む。それをやわらかく抱きとめ、銀時は桂をそのまま組み敷いた。
「...交代」
耳元で優しく囁いて、銀時がゆっくりと律動を開始する。
「ばか、あぁ、あ・・あっ」
止めようとするが、快楽に全身を縛られ、動くことができない。
「ばかって、お前なァ...」
苦笑いするその表情が色っぽく、桂はますます顔を赤くする。
「ん、ぁ、あ、あ、」
次第に銀時の動きが激しくなっていく。
「ぎん、あ、だめ、あ、ん...っ」
銀時は優しい眼のまま、無言で桂の口を塞ぐ。
「ん、ん、んンっ...!」
熱いくちづけ、激しい挿入、深い絆。
静かな夜に響く、肉感的な音。官能的な声。
「んっあ、ああ、あぁ...!」
くちづけが離れたとたん、銀時の動きが一段と激しさを増す。
強く深く挿入され、甘い悲鳴とともに、桂は意識を手放した。
6.
くったりと横たわる桂の隣に、自らも倒れ込む。呼吸が落ち着いてくると同時に、腹部の傷がじくじくと疼き出した。
手をやると、ねっとりとした感触。
「ヤベ、開いちまった...」
顔をしかめて呟きつつ、桂の身体をそっとうつぶせにして背の傷を確かめる。白い包帯は汗で湿り、うっすらと朱が滲んでいた。
「ったく、動くなって言ったのによ...。何だあの脅し文句は」
顔にかかる黒髪を耳にかけてやりながら、銀時がひとりごちる。耳から肩、肩から肩甲骨にかけてのラインをゆっくりとなぞり、背をそっと撫ぜた。
幼い頃から時を共にしてきて、戦いのときは常に背を預けあって共に戦った。
その背中に今刻まれている傷は、直接的ではないにしろ、かつての仲間の作り出した剣によるものだ。
消息を絶ち、ひとりでかつての仲間のもとへ乗り込んでいった桂。そこで何があったか、詳しくは語らないが、その後の言葉から想像はつく。
「きばりすぎなんだよ、オメーは...」
背を撫ぜながら、そっと呟く。
国を変える。友を変える。ひたむきでまっすぐで、他人のために全力を尽くす。
昼間に見た、化膿しかけた傷。今回も、自分の傷は棚に上げて党員の治療の手配に奔走している。
「もう少し、自分も大事にしろや...?」
普段は言えない言葉と共に、銀時は危なかしい幼馴染の肩にキスを落とした。
眠りに落ちる前に簡単な処置をしてしまおうと、薬箱を求めて立ち上がる。
瞬間、ズキンと腹部に痛みが走り、銀時は思わずその場にうずくまった。
「いッてててて...!」
情けない声が上がる。その声に、桂がぼんやりと目を開けた。
「ぎんとき...?」
腹部を押さえて唸っている銀時を認識し、形のいい眉をひそめる。
「...だから、俺が動くと言っただろう」
「...うるせェ」
さっきまで甘い声で喘いでいたくせに、その口調はもう憎たらしい。
「まったく貴様は、いくつになっても進歩のない...。見せてみろ」
桂は少しふらつきながら起き上がり、拗ねたように顔を背ける銀時の腹部の包帯をそっと外した。
「...完全に開いたな、コレは。リーダーに怒られるぞ」
真顔で言い放ってから部屋の隅に置いてある薬箱を手繰り寄せ、脱脂綿と消毒液を取り出す。
「ほら、」
「...ハイ」
有無を言わさず促されて、銀時はしぶしぶ横になり、腹の傷を桂に晒した。
「沁みるぞ」
言うと同時に、強烈な痛みが腹部を刺す。
「ぐをををを!ヅラ君ヅラ君ちょっタンマ!」
「ヅラじゃない桂だ」
消毒液を浸した脱脂綿が、ぐいぐいと傷口を擦る。
「いででででで!沁みる!沁みる!手加減しろバカ!」
「バカじゃない桂だ。武士ならこのくらい我慢しろ、軟弱者め」
「できるかァァァ!沁みる!沁みるって!うぐをををを」
「...まったく、しょうがない奴だ。目を閉じろ」
そう言って、桂の顔が銀時に近づいた。
「ん...?」
くちびるに、やわらかく甘い感触がふわりと重なる。
「これならば、我慢できるか...?」
微笑んで桂は、目を丸くしている銀時に再びそっとくちづけた。
舌を浅く差し入れ、なだめるように淡く絡めながら、消毒を続ける。
やさしく啄ばみ、穏やかに舌を触れ合わせ、暖かく包み込む。
(...まったく、こいつは...)
銀時はそっと桂の後頭部に掌を回し、無言でその甘いキスを受けた。
後頭部からうなじにかけて指先を滑らせ、髪を絡め、梳く。
肩を包み込むように抱き、穏やかなキスを味わう。
やさしい時間が、2人の間に流れる。
「...ぎんとき。消毒は終わった、離せ」
「んー、もうちょっと」
「薬を塗る、それから包帯を巻く...それが終わったら、続けてやる」
「...ハイ」
薬を塗り、あまり器用ではないが慣れた手つきで、銀時に包帯を巻く。
「ほら、これでいい...」
手当てを終えるなり、桂はふわりと夜具に倒れ込んだ。
「オ、オイ!?」
驚いて抱き起こす。だが桂はすでに安らかな寝息をたてていた。
「...ったく、続きはねぇのかよ...」
おそらくいろいろなことに疲れているであろうその身体をやさしく抱きしめてから、銀時は桂の傷の手当てをし直すべく、自分が昼間巻いてやった包帯をゆっくりと解いていった。
了
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