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「...で、昨日はどうしたって?学級委員長」
6月27日、放課後。校舎の隅の図書準備室。
本がうず高く積まれ薄暗くひんやりとした部屋の奥、机にだらしなく片肘を付いた教師と、その脇にうなだれて立っている生徒が一人。
「...すみま、せん...」
消え入りそうな声で答える教え子の顔を、銀八は意地悪く覗きこんだ。
「どーして無断欠席なんかしたの?先生の目ェ見て、言ってごらん」
バカがつくほど生真面目なこの生徒は、昨日の無断欠席を問われ、嘘もつけずにうつむいている。小さく縮こまった肩は微かに震えていて、たかがたった一回のズル休みを心から申し訳なく思っているようだった。
まったく、そういうところが普段ならば可愛いのだけど、今日ばかりは銀八も心穏やかではない。うつむいた顔を隠すように流れる黒髪をかき上げて、銀八は教え子の目をじっと問うように見つめた。
「......ごめんなさい...」
しばらくの沈黙の後、後ろめたそうに視線を逸らし、桂はやっとのことで声を絞り出す。その台詞の可愛らしさに思わずこみ上げたよからぬ衝動を抑えつつ、銀八はゆっくりと質問を続けた。
「答えられないってことは、どーゆーことなのかな、ヅラくん?」
適当にごまかせばよいものを、真っ直ぐで嘘をつくことを知らないこの教え子は、不本意な呼び名を訂正する余裕もなく、青ざめた顔ですみませんを繰り返す。ズボンの横で握られた拳は小さく震えていて、ついついいじめたくなってしまう。
「先生に言えないようなコトでもしてたのか?」
わざと厳しい声色で言うと、桂は一瞬泣きそうな顔をして担任教師を見た。若く柔らかそうなくちびるが、本当のことを言えない苦しさに震えている。ぎゅうと抱きしめたい気持ちを大人の自制心で抑えながら、銀八は桂の肩にどっかりと掌を乗せた。
「...最近お前、ちょっとおかしいぞ」
いつも射抜かれるんじゃないかと思うくらいまっすぐな眼で黒板と教科書と教師を見ていた生徒が、窓の外を見てぼうっとしていたり、時にはうとうとしていたり。遅刻だってしたことないくせに、突然無断欠席をしたり。
「どうしたんだ、ヅラ?」
声を少し和らげて、銀八は教え子の潤んだ瞳を覗きこんだ。
放課後、いつもお前を連れていく奴のせいか?
喉まで出かけたその問いは、しかしなぜか口にすることができずに飲み込む。
「...すみま、せん、先生...」
桂は罪悪感でいっぱいの顔をして、ただ同じ言葉を繰り返した。生真面目なくちびるは薄く震えていて、今にも泣き出しそうだ。
これ以上問い詰めても何も引き出せないと判断した銀八はふうとため息をつき、桂の頭を乱暴にかき混ぜた。
「わわ、」
「とにかく今日は居残りだ。罰として、史料整理を手伝うこと」
「...ハイ...」
長い睫毛を伏せて頷いたその首筋に、小さく鬱血した痕を見つけたような気がして、銀八は思わず目を逸らした。

 

 

「オイオイそこの君、ここは駐輪禁止ですよコノヤロー?」
大きなバイクの横で校門の塀に凭れ、腕組をしている高校生。私立のブレザーに身を包み耳に大きなヘッドホンをあてたその生徒は、白衣のポケットに手を突っ込んで気だるく近寄ってきた教師を関心なさげに一瞥した。
「...人を待っているだけだ」
「困るんだけどねー、校門の前でこんな待ち伏せされても」
言いながら黒いバイクの座席に手を置く。その手をぞんざいに払いのけ、他校生は銀八に冷ややかな視線を送った。
「人のものに勝手に触るな。礼儀を知らぬ教師だ」
「ヘッドホン付けて話す奴に礼儀を言われたくはねェな」
一瞬のうちに火花が交錯する。
「...教師のくせに、随分な言葉遣いだな。どこで待とうと俺の自由だ、干渉しないでもらおう」
「ヅラなら今日は居残りだ。残念だったな、遅くならないうちにさっさと帰んなさい」
「ならば余計に帰るわけにはいかんな。教師の嫌がらせにさぞ疲れていることだろう」
「ンだと?」
思わず声を荒げた銀八とは対照的に、その生徒は冷静に言葉を続けた。
「とにかく、貴様には関係ないことだ...。他校生に絡む暇があったら、桂を早く返してもらおうか」
「そっちこそ、うちの桂くんにあんまちょっかい出さないでくれる?はっきり言って大迷惑なんですけど」
抑えたトーンだが、どこか怒りの滲んだ声。しかしそれに怯むことなく、他校生は落ち着いて言葉を返す。
「随分な物言いだな。桂は別に貴様の所有物ではあるまい」
核心をついた言葉に、ぐ、と銀八の喉が詰まる。
「それとも、優等生が優等生でなくなっては困る、とでも?」
「そんなんじゃねぇ!」
思わず胸ぐらを掴んだ銀八に、ブレザー姿の高校生は余裕の表情で言葉を続けた。
「では、余計な口を出さないでもらおう。校外でどんな付き合いをしようと俺達の自由だ」
「...若造が、言うじゃねェか」
吐き捨てるように言い、銀八は掴んだ手をおもむろに離した。
「とにかく、今日は桂は俺が送ってくから。キミは早く帰んなさい」
ぎろりとした視線と共に言い捨て、銀八は校舎の方へ戻っていく。
いつも話に聞かされる教師の後姿を眺めながら、その他校生は口元にゆっくりと勝者の笑みを浮かべた。

 

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