※この作品は性描写があります。18歳未満の方はお戻り下さい。
18歳以上の方は自己責任でご閲覧下さい。
1.
俺達は幼い頃から、2人で1つだった。
俺の一番古い記憶は、あいつのやわらかな掌。
いつも俺の隣にはあいつがいて、あいつの隣には俺がいて、
不条理な世界の片隅で、2人くっついてどうにか生きていた。
ともに過ごした、濃密な時間。
離れるなんて、考えもしなかった。だって俺達は、2人で1つなんだから。
だけど現実は想像以上に不条理で残酷だということを、俺は11の春に思い知った。
所詮俺達は非力な子供で、遠くへ連れて行かれるあいつを、置いていかれる俺を、俺達は互いにどうすることもできなかったんだ。
あいつを奪われた俺の心は、11にして、生きる意味を失った。
もう、何もかも、どうでもいい。
小太郎がかつて育ったその場所に、ようやく再び訪れることができたのは、中学に進学した年の冬だった。
大きな湖の近くの、静かな町の片隅。
孤児だった身から、老夫婦の養子に入ってもうすぐ2年になる。
賢く行儀もよい小太郎は養父母にかわいがられ、どこか遠慮しながらも、表面的には不自由のない生活を送っていた。
だけど心はいつも、遠く離れた地に残してきた幼馴染を想う。
13の冬、ようやく一人旅の許可が出た小太郎は、片時も忘れることのなかったその姿を求め、長い旅程を経てまっすぐに銀時の元へと向かった。
湖の傍の雑木林の中にある、古い廃小屋。
以前よく2人で過ごした、2人だけのその秘密の場所の戸を、小太郎はゆっくりと開ける。
案の定、その場所に、銀時はいた。
無造作な銀髪と赤みがかった瞳はそのままに、記憶の中より背は伸びて、思春期の少年の体躯に成長したその姿。
「銀、時...?」
おそるおそる声を掛ける小太郎を、しかし銀時はゆらり、と死んだような眼で見遣った。
「...............小太郎、」
長い沈黙の後、くちびるが掠れた声で動く。
その声に突き動かされるように、小太郎は銀時の方へ駆け寄った。
「銀時、銀時...!」
白い息を吐きながらふわりと駆け寄ってきて自分を抱きしめる小太郎を、しかし銀時は濁った眼で見つめた。
記憶の中より少し大人びた、しなやかなその肢体。
はかなげに艶めいたくちびる、白い首筋。華奢な肩。
「銀時、ぎんとき、あいたかった...」
泣きそうに震える声で何度も自分の名を繰り返す小太郎を、どこか冷めた視線で眺める銀時。
それが、2人が引き離されてから、およそ2年ぶりの、再会だった。
「......本当に、あいたかったのかよ」
口を付いて出たのは、銀時自身も驚くくらい、冷たい声色。
小太郎がはっと顔を上げ、銀時と視線がぶつかる。
「...2年、だぜ」
物心ついたときから時を共有してきた2人が、互いを失っていた間。
「長ェ、よ...」
腹の底から苦しみの澱を搾り出すように、銀時が呟く。
「...何で、今頃...」
何度も何度も忘れようと努力して、それでも忘れられずに、まだ未成熟なこの心を死ぬほど苦しめたその不在。
憎しみの色すら感じさせるその目つきに小太郎は姿勢を正し、少し哀しげな表情で銀時に向き直った。
「銀時...」
辛かったのは自分も同じなのだと伝えたく、しかしあまりの想いの強さが、逆に別の言葉を紡がせる。
「仕方、ないだろう...俺たちは、所詮、非力な子供なんだ」
悟ったように言うその表情は、どこか物憂げで、銀時の前で屈託のない笑顔を見せていた以前の小太郎とは全く違うもので。
「...だったら」
銀時が突然小太郎を乱暴に引き寄せる。
締め上げるほどの強さで抱き、そのまま勢いに任せて床に押し倒した。
「ぎ、銀時...!?」
急な出来事に戸惑いの声を上げる小太郎を強く組み敷き直し、
「だったら俺が、さっさとオトナに、してやるよ」
銀時は小太郎の衣服をおもむろに剥ぎ取り始めた。
「な、銀時、何を...っ」
幼馴染の豹変ぶりに頭がついていかないのか、小太郎は瞳に戸惑いを浮かべたまま、それでも銀時にされるがままになっている。
まだ幼い柔肌に口唇が吸い付き、その手が胸から腹へ伝ってさらに下へ降り、
「ぎ、ぎんとき...?」
震える声でその手を止めようとするが、予想外に強い力で手を払われ、
「ひ、やっ...!」
初めて他人に触れられたそこから生じた感覚に、思わず身を捩る。
「ぎ、ぎん...」
泣きそうな声で見上げる小太郎の怯えに気付かないフリをして、
「大人の感覚を教えてやる」
銀時は短く言い切り、まだ未熟なそこに、知ったような手つきで刺激を与え始める。
「やっ...!?ぎんっ、い、やだっ...、やめて、」
未熟な身体に眠る性的な熱を無理矢理こじ開けて引き出すように、強く動かされる指。
「い、や、やだっ、おねがい、」
ぞくぞくと立ち昇ってくる未体験の刺激が怖くて、なぜ銀時がそんなことをするのかもわからなくて、でも身体は確実に反応し始めていて。
「きもち、いいだろ」
記憶の中にあるよりも確実に大人びた声で、銀時が囁く。
「わかん、ない、やめ、て、おねがい、ぎんっ...!」
蠢く指にいやいやと首を振る小太郎の、それでも吐く息の温度は確実に上がってきていて、大きな瞳は今にもはじけそうなほどに潤んでいる。
「やめねぇ」
短く返事をした銀時の顔は、すでに男の表情をしていて、2年ぶりに逢った幼馴染の知らない一面にさらに怯えて。
「ゆるし、て、いやっ、やだぁ、あ、ひっ」
脚ががくがくと震えてきて、それでも性的感覚を完全に目覚めさせるには身体がまだ幼くて、体内をじくじくと巡る熱に小太郎はただ身悶える。
だが銀時は容赦なく、小太郎の膝を思い切り開かせた。
「ひやっ!?」
驚愕に目を見開いた小太郎に構わず、銀時はそこに顔を埋めて舌をあてがう。
「ア...っ、」
びくん、
粘膜で触れられるその生々しさに、言葉で抗うよりも先に身体が痺れるような反応を示す。
「や、やめ...」
震えながら懇願する小太郎の声に気付かないフリをして、銀時はそこを激しく貪り始めた。
「んぅ、やぁっ、やだ...っ、ぎん、んやぁっ...!」
生々しく舐めまわす舌の熱く湿った感覚に、ほとんど泣き声に近い悲鳴を上げて身体を捩らせる小太郎。
剥き出しになった脚をきつく押さえ付け、それでも銀時は執拗にそこを貪る。
「ぃや、ぎんっ、あぁあっ、ぃや、やだぁっ...!」
がくがくと震える脚、肩、のけぞる白い喉、振り乱れるつやつやの髪。
身体中を暴れまわる未知の感覚と、全く知らない銀時の表情に、怯えて幼く泣きじゃくる小太郎。
そこがこれほど敏感な部分だなんて思ってもみなくて、こんなふうに誰かに暴かれるなんて考えたこともなくて、それでもびちゃびちゃに吸い付かれ舐めまわされたそこは、確実に快感と呼ばれる熱を身体中に巡らせて。
でもその感覚の名前をまだ知らない小太郎には、あまりに怖く、苦しいもので。
なぜ銀時がこんなことをするのかも分からないまま、身体を侵す未知の刺激に、ただただ恐怖。
「あぁっ...はぁ、あ、あぁあっ、いやあッ...!」
ビクンッ、小さな身体が痛ましいほどに大きく揺れて、やがて銀時の口内に薄い精が吐き出された。
2.
あいたくて、あいたくて、あいたくて。
自分がここを離れることになって、どうしてもどうしてもそれは不可抗力だということがわかって、
子供であるということの非力を痛いくらいにかみしめながら、
必ずいつか、また同じ時を過ごせる日が来る。
見失わないように、その光をまっすぐに見据えていよう。
その想いだけを胸に、この2年を過ごしてきた。
でも、
あいたかった、あいたかった、
あいたかったよ。
銀時。
未知の感覚からようやく解放され、小太郎は少しの間茫然としていた。
やがて大きな瞳の端から、ぽろぽろと零れる涙。しゃくりあげる度に肩が揺れ、曝け出された柔らかな肌が上下する。
その痛ましい様子に、銀時はようやく我に返った。
「こ、小太郎...」
おそるおそる言葉をかけ、その火照った頬に手を当てる。
この2年、何度も何度も夢に見て、それでも届くことの叶わなかったその頬。
今こうして触れるその頬は、しかし涙に濡れている。
「......ごめ、ん」
銀時は露わになった肌を包むように、ゆっくりと小太郎を抱きしめた。
死ぬほど苦しかったその不在を満たすものが、今、この腕の中にある。
「小太郎、ごめん...」
次第に腕に力がこもり、もう2度と離さないと言わんばかりに、首筋に顔をうずめて強く抱く。
「あいたかった、小太郎、あいたかった...」
抱きしめられるそのぬくもりと、銀時も泣きそうな声になっているのに気付いて、小太郎はゆっくりと目を開け、自分の幼馴染を見つめた。
ぼんやりと涙で滲んでいるものの、視界に入るふわふわの銀の髪、それは紛れもなく、銀時。
自分を抱きしめる腕は記憶の中よりも強く大きく、名を呼ぶ声はやや大人びているけれど、このぬくもりは、この2年の間ずっと、想い続けていたもの。
「...銀時...ぎん、とき」
確かめるように名を呼び、その背にぎゅっと腕を回す。
「ごめん、ごめんな、こたろ...」
「銀時、ぎんとき...」
何度もごめんと繰り返す銀時の頭を包むように抱き、小太郎は再び眼を閉じた。
「...俺、ずっと、すっげえ、くるしかった...」
「...うん」
「...マジ、死にそーだった」
「...うん」
「小太郎、」
「ん...?」
「あいたかった...!」
再びぎゅうと抱きしめる。小太郎も、それに応えるように抱きしめ返す。
身体を密着させたまま、何度も確かめるように互いの名を呼び合う。
そのうちどちらともなく無言になって、ただぬくもりを感じていると、ふいに銀時が顔を上げた。
「銀時...?」
不思議そうな声を上げる小太郎の顔を正面から見つめる。
黒く濡れた、大きな瞳。まだ目の端が赤い。
真面目な表情で自分を見つめる銀時の赤い瞳を、小太郎も正面から見つめ返した。
どのくらい、そうして見つめ合っていただろうか。
そして、銀時の口唇が、小太郎の口唇の上にゆっくりと降りた。
「ぅっ...」
そのまま熱い舌がぬっと入り込んできて、一瞬小太郎の身体が怯む。
手を繋いで、指を絡めて、銀時は少し口唇を離してから小太郎の瞳を大人びた表情で見つめた。
「...な、小太郎」
瞳を見据えたまま、少しだけ上擦った声で、言葉を紡ぐ。
「俺、どうしても、」
ぐ、と繋いだ手に力がこもる。
「もっとおまえに、エッチなことしたい」
言った本人も真っ赤になるような、つたない言葉。言われたほうの小太郎は、意味がわからずに目をぱちくりとさせる。
「え...?」
「...だから、」
視線を外し、わざとぶっきらぼうに言う。
「痛いかもしれないし、怖いかもしれないけど、でも」
でも。俺、おまえを抱きしめるだけじゃ、もう、足りないんだ。
小さく呟いた銀時に、小太郎は少しだけ不思議そうな顔をしたけれど、
「俺も、銀時ともっと、くっつきたい」
銀時の言う言葉の意味はよくわからないまま、ただ素直な気持ちで、そう答えた。
3・4へ
PR