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※この作品は性描写があります。18歳未満の方はお戻り下さい。
18歳以上の方は自己責任でご閲覧下さい。
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「オイづら、おきろ。おきろよ」
小声ともにぐいぐいとらんぼうにゆさぶられ、小太郎はむぅとうなりをあげながら目を開けた。
「・・・づらじゃない、かつらだ・・・」
ねぼけた声でもとっさに口をついてでる、いつもの反論。
「いいから、おきろって」
ちいさな手が、小太郎のちいさな肩をさらにゆさぶる。
ねむい目をこすり、くぁ、とねこのようなあくびをして、小太郎は晋助にひっぱられるようにむくりと起き上がった。
「なんだ晋助・・・もう、朝か?」
「ばぁか。いいから、ほら、ついてこい」
寝起きで少しほほの赤い小太郎を布団からひっぱりだし、だれにも見つからぬようにそっと、しかし強引に部屋のそとへ連れ出す。
「晋助・・・?」
「いいから、こいってば」
晋助は小太郎の手をぐいと引いて、廊下へ、玄関へ、そとへ、そして森のほうへとずいずい歩いていく。

「だめだ晋助、森へはあぶないから行ってはならぬといわれているだろう」
「ばぁか、ンな言いつけまもってんのはてめぇぐらいだ。だまってついてこいよ」

晋助は真剣な歩調でもくもくと歩く。はじめは「おい!」だの「まて!」だの声をあげていた小太郎も、いつにない晋助の真摯さにしだいに口をつぐみ、手をひかれるままに歩みを進めた。
まだ幼いふたりにとって、真夜中の森はとても危険だ。晋助は小太郎の手をいっしょうけんめいひいて、小太郎は晋助の手をいっしょうけんめいにぎって、ふたり離れてしまわぬように、互いの手のぬくもりをたよりに歩く。
そんなふたりをみまもるように、こよいの月があかあかと、森の木々のすきまから、道なき道を照らし出す。

肩で息をしながらふたり、かれこれ、30分は歩き通しただろうか。
「ふぐ!」
急に歩みをとめた晋助の背に、小太郎はおもいきりぶつかった。
「なん・・・」
文句を言いかけた小太郎に、晋助が前方をそっとゆびさす。
顔をあげた小太郎の目の前にひろがるもの、それは。

「・・・うわぁ・・・!」

森のちいさな広場の中に、一面に咲きほこる、青くちいさなツユクサの花々。
夜露にたくさん月を浴び、木立にそっと守られながら、淡くゆめゆめしいひかりを放っている。

「すげえだろ・・・?」
おおきな瞳をさらに見開いてその景色に見入る小太郎に、晋助の顔がほころぶ。小太郎はすいこまれるように広場の中央へ歩みよった。

夜露をしっとりとまとい、月明かりに照らされて、ちいさくも凛とした青き花々、そのすらりと伸びる葉。
「すごい、な・・・」
小太郎のちいさくぽってりとしたくちびるが、すなおに感動をつむぐ。
「・・・だろ?」
小太郎の横顔と、大きくひかりを放つ満月、きよらかに咲く青い花。
交互に視線をめぐらせて、晋助は少し照れたようにうつむいた。

「おまえ、きょう、たんじょうびだから」

ぼそりと落とされた晋助のことばに、一瞬きょとんとした顔をして、それからすこしおどろいた顔をして、小太郎がふりかえる。

「それで、ここに・・・?」
「・・・・・・・・・まぁ、な」
「・・・晋助」
「・・・・・・あンだよ」
「ありがとう」

すなおにもたらされた礼のことばに、晋助は照れを隠すように背を向ける。
「・・・またひとつ、おれをおいていきやがって」
「え?」
何のことか分からないという表情で、小太郎が晋助の背を見つめる。
「・・・またひとつ、年が、はなれた」
晋助は聞きとれないくらいの声で、ぶっきらぼうにつぶやく。
「・・・・・・ああ・・・」
小太郎はすこしだけおどろいた顔をしたあと、合点がいったようにうなずき、次に怒ったように眉をきゅっとよせた。
「何をいっている。おれはおまえをおいていってなどいない」
とてもまじめな口調で、りんとしたまなざしで、小太郎がまっすぐに言う。
晋助はそのことばを背で聞いて、でも内心とてもうれしくて、顔がかあと赤くなる。
「だいたい、おまえのたんじょうびがくればまた、元の差にもどるだろう」
「・・・うるせぇ、ばぁか」
消え入りそうな声で、でもどこかほっとしたように、晋助がつぶやく。
「しんすけ」
「・・・ァんだよ」
「ここにつれてきてくれて、ありがとう」
「・・・・・・あぁ・・・」
ほほを赤くしたまま、晋助は小太郎のほうにむきなおった。
 
「・・・ここは、ひみつなんだ」
やはり小声でぶっきらぼうに、でも小太郎にはちゃんと聞こえる大きさで、たどたどしくことばをつむぐ。
「うん」
晋助の真剣な様子に、小太郎も神妙な面持ちでうなずく。

「・・・おまえだけにおしえた。とくべつだ」
「うん」
「おまえと、おれの、ひみつだ」
「うん」
「ほかのやつに、おしえんな」
「うん」
「じゃあ、ゆびきりしろ」
「うん」

幼いゆびとゆびが、きゅっとかたく結びついて、ゆびきり、げんまん。
ふたりだけの、ひみつのばしょ、ひみつのきおく。

「わすれんなよ」
「ああ、わすれない」
「ぜったい、わすれんなよ」
「わすれるものか、おまえこそ、わすれるなよ」
ふたりかわしたこのやくそくを、このひのきおくを。

花は、ずっと咲いているものではないから。この景色は、いつまでも続くものではないから。この時間は、いつまでも、続くものではないから。
大きく光る満月の下、二人の無垢な仔供は、結んだ小指を離さないまま、その光景を、過ごした時間を、心に深く刻み付けた。


いつかふたりがはなればなれになっても、いっしょにすごした時間を、わすれてしまわないように。

※この作品は性描写があります。18歳未満の方はお戻り下さい。
18歳以上の方は自己責任でご閲覧下さい。

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