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※この作品は性描写があります。18歳未満の方はお戻り下さい。
18歳以上の方は自己責任でご閲覧下さい。

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「...で、昨日はどうしたって?学級委員長」
6月27日、放課後。校舎の隅の図書準備室。
本がうず高く積まれ薄暗くひんやりとした部屋の奥、机にだらしなく片肘を付いた教師と、その脇にうなだれて立っている生徒が一人。
「...すみま、せん...」
消え入りそうな声で答える教え子の顔を、銀八は意地悪く覗きこんだ。
「どーして無断欠席なんかしたの?先生の目ェ見て、言ってごらん」
バカがつくほど生真面目なこの生徒は、昨日の無断欠席を問われ、嘘もつけずにうつむいている。小さく縮こまった肩は微かに震えていて、たかがたった一回のズル休みを心から申し訳なく思っているようだった。
まったく、そういうところが普段ならば可愛いのだけど、今日ばかりは銀八も心穏やかではない。うつむいた顔を隠すように流れる黒髪をかき上げて、銀八は教え子の目をじっと問うように見つめた。
「......ごめんなさい...」
しばらくの沈黙の後、後ろめたそうに視線を逸らし、桂はやっとのことで声を絞り出す。その台詞の可愛らしさに思わずこみ上げたよからぬ衝動を抑えつつ、銀八はゆっくりと質問を続けた。
「答えられないってことは、どーゆーことなのかな、ヅラくん?」
適当にごまかせばよいものを、真っ直ぐで嘘をつくことを知らないこの教え子は、不本意な呼び名を訂正する余裕もなく、青ざめた顔ですみませんを繰り返す。ズボンの横で握られた拳は小さく震えていて、ついついいじめたくなってしまう。
「先生に言えないようなコトでもしてたのか?」
わざと厳しい声色で言うと、桂は一瞬泣きそうな顔をして担任教師を見た。若く柔らかそうなくちびるが、本当のことを言えない苦しさに震えている。ぎゅうと抱きしめたい気持ちを大人の自制心で抑えながら、銀八は桂の肩にどっかりと掌を乗せた。
「...最近お前、ちょっとおかしいぞ」
いつも射抜かれるんじゃないかと思うくらいまっすぐな眼で黒板と教科書と教師を見ていた生徒が、窓の外を見てぼうっとしていたり、時にはうとうとしていたり。遅刻だってしたことないくせに、突然無断欠席をしたり。
「どうしたんだ、ヅラ?」
声を少し和らげて、銀八は教え子の潤んだ瞳を覗きこんだ。
放課後、いつもお前を連れていく奴のせいか?
喉まで出かけたその問いは、しかしなぜか口にすることができずに飲み込む。
「...すみま、せん、先生...」
桂は罪悪感でいっぱいの顔をして、ただ同じ言葉を繰り返した。生真面目なくちびるは薄く震えていて、今にも泣き出しそうだ。
これ以上問い詰めても何も引き出せないと判断した銀八はふうとため息をつき、桂の頭を乱暴にかき混ぜた。
「わわ、」
「とにかく今日は居残りだ。罰として、史料整理を手伝うこと」
「...ハイ...」
長い睫毛を伏せて頷いたその首筋に、小さく鬱血した痕を見つけたような気がして、銀八は思わず目を逸らした。

 

 

「オイオイそこの君、ここは駐輪禁止ですよコノヤロー?」
大きなバイクの横で校門の塀に凭れ、腕組をしている高校生。私立のブレザーに身を包み耳に大きなヘッドホンをあてたその生徒は、白衣のポケットに手を突っ込んで気だるく近寄ってきた教師を関心なさげに一瞥した。
「...人を待っているだけだ」
「困るんだけどねー、校門の前でこんな待ち伏せされても」
言いながら黒いバイクの座席に手を置く。その手をぞんざいに払いのけ、他校生は銀八に冷ややかな視線を送った。
「人のものに勝手に触るな。礼儀を知らぬ教師だ」
「ヘッドホン付けて話す奴に礼儀を言われたくはねェな」
一瞬のうちに火花が交錯する。
「...教師のくせに、随分な言葉遣いだな。どこで待とうと俺の自由だ、干渉しないでもらおう」
「ヅラなら今日は居残りだ。残念だったな、遅くならないうちにさっさと帰んなさい」
「ならば余計に帰るわけにはいかんな。教師の嫌がらせにさぞ疲れていることだろう」
「ンだと?」
思わず声を荒げた銀八とは対照的に、その生徒は冷静に言葉を続けた。
「とにかく、貴様には関係ないことだ...。他校生に絡む暇があったら、桂を早く返してもらおうか」
「そっちこそ、うちの桂くんにあんまちょっかい出さないでくれる?はっきり言って大迷惑なんですけど」
抑えたトーンだが、どこか怒りの滲んだ声。しかしそれに怯むことなく、他校生は落ち着いて言葉を返す。
「随分な物言いだな。桂は別に貴様の所有物ではあるまい」
核心をついた言葉に、ぐ、と銀八の喉が詰まる。
「それとも、優等生が優等生でなくなっては困る、とでも?」
「そんなんじゃねぇ!」
思わず胸ぐらを掴んだ銀八に、ブレザー姿の高校生は余裕の表情で言葉を続けた。
「では、余計な口を出さないでもらおう。校外でどんな付き合いをしようと俺達の自由だ」
「...若造が、言うじゃねェか」
吐き捨てるように言い、銀八は掴んだ手をおもむろに離した。
「とにかく、今日は桂は俺が送ってくから。キミは早く帰んなさい」
ぎろりとした視線と共に言い捨て、銀八は校舎の方へ戻っていく。
いつも話に聞かされる教師の後姿を眺めながら、その他校生は口元にゆっくりと勝者の笑みを浮かべた。

 

コポ、コポ、
コーヒーメーカーの音と、朝の柔らかな光。風に揺れる、白いカーテン。
「ぅん...」
桂は重い瞼を微かに開け、小さく伸びをする。
「起きたのか」
近づいてくる、コーヒーの匂いを纏わせた男。
桂はまだ痛みの残る身体を反転させ、拗ねたように白いシーツを被った。
「...起きてない」
河上はベッドに腰掛け、そっとシーツをめくって顔を覗き込む。
「では、起こしてやろうか?」
耳元に口唇を近づけて、そう言う声は、甘やかすように優しい。
6月26日、火曜日。


手首には、昨晩の長く激しいセックスの痕が痛々しく残っている。
制服のネクタイできつく縛られて、ひたすら弄られ、煽られ、喘がされ、
未だ快感に慣れない身体に容赦なく施される、拷問のような焦らしの果てに、
6月26日の時間を全てゆだねることを結局強引に承知させられてしまった。
時間を全てゆだねるということは、もちろん学校に行ってもいけないわけで、
バカがつくほど生真面目な桂としては、ズル休みなんてできるかと全力で抵抗したものの、
狂いそうなほどの焦らしに翻弄されて、成す術なく陥落。
だけど時計の針が0時を越えると、激しかったセックスが途端に甘く穏やかになって、
麻薬のような快感を、ゆるくやさしくいつくしむように、時間をかけて与えられ、
気が遠くなるほどの愛撫の中で、何度も何度も相手の名を呼んだ自分。


昨夜の恥ずかしい記憶が頭の中を次々とよぎり、思わず顔が赤くなった。
「もう少し、寝ているか?」
そんな桂とは逆に、涼しい表情をした河上。いたわるように黒髪を梳き、シーツの上から肩を撫でる。
「...うるさぃ」
桂は顔を隠すように、さらにシーツを深く被った。
いつもなら、とっくに登校している時間だ。一時限目はもう終わっただろうか。
今日の授業は何だったかな、と思いを巡らせていると、それに呼応するかのように、突然バイブ音が部屋に響いた。
「...そろそろ、優等生の異変に気付いたか?」
桂の鞄を勝手にまさぐり、白いぬいぐるみのぶらさがった携帯を取り出して、河上が面白そうに呟く。
「担任からのようだが...俺が出ようか」
「ばっ、やめろ!」
慌ててがばりと起き上がり、河上の手から携帯を奪い取る。だが受話ボタンを押そうとして、桂ははたと手を止めた。電話に出て、それで一体どうすればよいのか。嘘はつけないし、かと言って正直に言うわけにもいかないし、何よりズル休みをしているという罪悪感で、胸の辺りがむずむずとする。
「どうした、出ないのか?」
無言で携帯を見つめたまま固まってしまった桂に、河上の腕がいつの間にか絡む。
携帯を握る指を解かれ、ベッドの上に放り出され、桂もベッドに押し倒されて、
「んん...っ」
口唇を重ねられ、舌が歯列を割って入り込んできた。
「ん、ンっ...ぅ」
ヴィィィン...ヴィィィン...
規則的なバイブの音が鳴り止まぬ中、ねっとりと絡められる濃厚な口付けが、身体を熱で侵していく。
携帯電話の向こう側に、自分を案じる教師の存在。
罪悪感と恥ずかしさが掻きたてられ、だけどどこかスリリングな高揚感があるのも、理不尽だけど、事実。
かなり長いこと鳴っていた音がようやく途切れると、銀の糸をひいてそっと口唇が解放された。
「っは、ぁ...」
少し乱れた息を整えようと桂が大きく空気を吸った瞬間、
ヴィィィン...ヴィィィン...
再び携帯が振動し始め、ドキンと心臓が鳴る。
「随分と、心配されているようだな?」
からかうような眼で覗き込む河上の顔が憎らしく、桂は罪悪感を散らすように、つっけんどんに言葉を吐いた。
「お前、最悪だ、ほんと」
「だが、約束は守ってもらうぞ?」
今日一日の、時間を全てゆだねること。
キッチンからは、ドリップを終えたコーヒーの匂いが、こうばしく広がってきていた。

部屋の隅に立て掛けてある1本のギター。
フローリングに散らばった2種類の制服。
6弦を奏でるのと同じ指が、白い喉に震える吐息を。

「ン...っ」
とても恥ずかしいことをされているはずなのに、抗うのをためらわれるくらい、ごく自然に、当たり前のようにするすると触れてくる指。
「あ、...ぁ、っ」
与えられる感覚の強さから逃れたくても、後ろから回された腕は全く揺るがなくて、その指には、口唇には、何の躊躇も罪悪感もない。
「は、あぁ、あ、ふ...」
声が甘く熱くなっていくのを、さらに促し煽るように、長い指が巧みに動く。
「ンっぁ、も、やだっ、いぁ...っ」
強い快感に慣れず身悶える白い肩に、首筋に、なだめるように口付けを落として。
「俺に、委ねていろ」
麻薬のような、その言葉。
次こそ抵抗しようと思っているのに、気がつくといつも、この腕の中に落ちてしまう。
この指は、自分の知らない顔を、次々に見つけ出していくから。
 

 

Tuning n.p.
 

 

きゅ、きゅ、
泡を柔らかに絡ませたスポンジを、白い素肌の上に丁寧に滑らせる。
桂は身体をくったりと預け、されるがままになっていた。
きつい抱き方をするくせに、身体を洗う万斉の手はいつも丁寧でやさしい。
「流すぞ」
勢いを少し弱めたシャワーで、手を這わせながらいたわるようにそっと、桂の身体にまとわれた泡を洗い流していく。
やわらかな蒸気に包まれた、週末のひととき。
「......あ、」
大人しく身体を預けていた桂が、何かを思い出したように声を上げた。
「ん...?」
万斉は穏やかに聞き返す。いつもはきちんとセットされた髪が、濡れ乱れていて色っぽく、続きを促すその声は、静かで優しい。
「お前、待ってるときに煙草吸うのはやめろ」
「...別に、問題ないだろう」
急な話題にさらりと答え、腕の中の身体にシャワーをあててやりながら、甘やかに耳朶を食む。
「教室から見えたぞ...。先生に見つかったら、どうするんだ」
「他校生に関心のある教師などおらんよ。...だが、優等生をたぶらかす不良、とあらば話は別か?」
からかうような口調で、泡を流したばかりの肩に口付けを降らせていく。放課後、学校を一歩出た途端いつも大きなバイクに攫われていく桂を、担任や同級生が気にしていないはずはなかった。
「そういう問題じゃない」
少し怒ったように振り向くと、口唇を塞がれる。シャワーヘッドが床に落ち、流れる湯が蒸気を上げ、万斉の両腕が白い身体を閉じ込めた。

しばらく、シャワーの流れる音だけが浴室に響く。

「...心配、か?」
口内を優しく侵し、力の抜けた桂の身体を、そっと抱きしめ直して囁く。
「な、ちが...」
反論しかけるが、自分を見つめる眼がとても優しいのに気付いて、桂は小さくため息をついた。
「...とにかく、校門で煙草を吸うのはやめろ。不敵にもほどがある」
「お前が言うなら、そうしよう...。その代わりと言っては何だが、連れて行きたいところがある」
「何だ、それは...ずるいぞ」
「いいだろう?」
有無を言わせぬ調子で言われ、それで煙草をやめるのならと、桂はしぶしぶ頷いた。

 

 

服を着て、身なりを整えて。
背後からすいとつけられたのは、細い黒革が幾重にも巻かれた、ゴシックデザインのチョーカー。先端には大きめの十字架が吊るされている。
「...重い」
「だが、似合っている」
清廉な姿に、ひとかけらの危なさを。
桂を鏡の前に立たせ、自分の服装と合わせるように、きっちり締められた白シャツの首元のボタンを外し、大きく肌蹴させたそこからチョーカーを覗かせる。
シルバーと黒革の太いバングルを手首に嵌めてやり、腰には鎖のベルトをゆるめに巻いて、耳元にも細いシルバーチェーンを。
「たまには、こういうのもいいだろう」
桂の肩越しに鏡を覗き込み、出来上がった姿を満足そうに眺める。
黒い艶を纏ったような、気品と清らかさと危険さが同居した姿。万斉と2人並ぶと何かのグラビアのような迫力がある。
「嫌か?」
「......今日だけ、だぞ」
後ろから絡んでくる万斉の腕に、憮然とした表情で答える。
こんな姿、学校の連中が見たら何と言うだろうか。
桂は見慣れぬ己にやや戸惑いながら、鏡に映った自分ともう1人の男を不思議な気持ちで見つめた。


 

 

連れて来られたのは、酒の匂いと煙草の煙とけだるい熱気が充満した、いかがわしい雰囲気の店。
タトゥーも露わな若者達、奥の一角で演奏される騒がしい音楽、薄暗くも毒々しいライティング。
顔見知りが多いらしく、万斉は次から次へと声をかけられている。こんなところへ来るのは初めてで、桂は戸惑い半分好奇心半分できょろきょろと辺りを見回していた。
「離れるなよ」
知り合いへの挨拶もそこそこに、桂の腕を引き寄せて隅のカウンターへ連れて行く。
グラスを2つ注文し、万斉は隣に座らせた桂をしげしげと眺めた。
「...よく、来るのか?」
その視線が気恥ずかしくて、居心地の悪さを紛らわそうと口を開く。
「まあな。最近はご無沙汰だが」
「お前、高校生がこんなところに出入りしていいと...」
「こういうところは、嫌いか?」
「そういう問題じゃ、」
「一度、連れてきてみたかったんだ」
桂の頬に手を沿え、静かに笑む。
「お前は、こういう場所に置いてみても、きっと似合うと思ったから」
指を耳元から髪に挿し込んで、ゆっくりと梳く。その優しい動きに、桂はしかめた眉を少しだけ和らげた。
「...こんなことは、今日限り、だぞ」
「ああ...、分かってるさ」
「ほんとに分かってるんだろうな...?」
訝しげな声で万斉を睨む桂の顎をくいと引いて、人に見られぬよう素早く口唇を触れさせる。
「なっ...!」
ばっと顔を赤らめて身を引く桂を嬉しそうに見つめ、万斉は自分のグラスにすいと口をつけた。
 

 

桂が充満する酒の香気に少し眩暈を覚えてきた頃。
万斉に寄って来た男が、ステージを指して何かを話していた。先刻まで騒がしい音楽が演奏されていたそこは、今は空白になっている。万斉は軽く頷き、カウンターの椅子から立ち上がった。
「一曲、演らねばならぬようだ...。桂、ピアノを頼む」
グラスを置いて桂の腕を引き、当たり前のようにステージの方へ連れて行く。
「...え!?」
あまりに自然なその動きに一瞬流されかけ、桂は慌てて腕を掴む手を払った。
「な、何で俺まで」
「大丈夫だ。俺に、委ねていればいい」
「大丈夫って、何が大丈夫なんだ!」
ぶんぶんと首を振る桂に構わず、万斉はギターを手にとってチューニングを進めていく。
「おい、無茶だ」
「無茶ではないさ。曲は...そうだな、」
万斉が口にしたのは、桂がよく弾くクラシック曲の一つだった。だがそれはごく普通のピアノソロで、エレキギターとのセッションなんて聞いたこともない。
「お前は何も考えずに弾けばいいから」
「弾けばいいって...お前はどうするんだ」
少し拗ねた口調で、ギターを構えた万斉に疑問の視線を向ける。
「心配はいらん。合わせてみせるさ」
事も無げに言う万斉に、自分ばかり動揺しているのも悔しい。
桂はすいと姿勢を正し、色褪せたピアノに向き直った。

 
毒々しいスポットライト、漂う煙草の煙、えも言われぬ熱気。
先刻まで好き勝手に喋っていた客達が、ステージ上の万斉に気付き次第に注目していく。
 

空気を切り裂くように始まった、激しく華麗なギターソロ。
ピアノ曲の主題をアレンジした、冷静かつ技巧的な演奏。指は巧みに6弦を操り、そこから生まれる音色には少しの躊躇いもない。その音はまるで麻薬のように桂の身体を浸していった。
一呼吸置いて、万斉が桂に視線を流す。
桂はまるで操られているかのようにうつろな眼で、おもむろに指を動かし始めた。
いつもの演奏とは明らかに違う、桂の音色。ギターの巧みなリードに乗って、楽譜通りの正確な演奏しかしたことのない指が、次々と自由な音を生み出していく。
交わす視線、あがる呼吸。感じあうように絡む2つの旋律。
ギターが次第に速度をあげ、ピアノを攻め立てるようにリードする。
猟奇的な弦の電気音に捕らえられ、気高く硬い鍵盤が、熱く震えるような響きを帯びていく。
官能的な表情をした桂と、その色を巧みに引き出していく万斉の音色。
次第に熱に浮かされたように、激しく、狂おしく。どんどん速度を増して。
まるで身体を交わしているときのように、妖しく高く、艶めいて。
ぞくぞく、する。
そして、絶頂。
頂点に達したかのような、最後の一音。
 

一瞬の沈黙の後、湧き上がる歓声。
 

あまりに激しい演奏に、桂は朦朧とした表情で腕を降ろした。
肩で息をし、口唇を震わせたその様は、まるで達した後のように万斉の眼に映る。
「...桂」
そっと名を呼ばれ、桂は肩に置かれた手に引き戻されるように我に返った。
「大丈夫か」
「...あ、ああ...」
「もう、帰ろう」
息を切らせて見上げる桂の、肩をすいと抱き寄せて、万斉は群衆から保護するように桂を店の外へ連れ出した。
深夜の冷たい空気が、火照った身体をほどよく冷ます。
「楽し、かった...。お前、すごいな」
まだ頬を紅潮させている桂をバイクの後部座席に掛けさせて、万斉はその両肩を包むように抱いた。

「こういう世界も、あるのだぞ」

囁いて桂の上身をすいと引き寄せ、口唇の隙間に舌を挿し込む。
いつもよりきつく絡めてくるその舌に、桂は初めて自分からそっと、万斉の背に腕を回した。

 



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